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2008年1月14日 (月)

昨日、犬が死んだ


昨日、犬が死んだ


 昨日、犬のリッキーが死んだ。
 散歩の必要はないのにいつものように目が覚めてしまい、せつなくなって僕は外に出た。玄関脇にある犬小屋に向かって僕は小さく呼ぶ。
「リッキー」
 すると、うぉんと鳴く声が犬小屋から聞こえた。
 まさか。慌てて僕は中を覗く。やはり誰もいない。しかし鳴き声は聞こえ続けている。
 犬小屋だ。犬小屋が鳴いているんだ。
 僕は怖くなって物置に駆け込みつるはしを持ってきた。それを犬小屋に振り下ろすと、声は止んだ。
 ほっとしたのもつかの間、今度は後ろから、わんという鳴き声。朝刊を吐き出して、ポストが鳴いているのだ。僕はまたそれを壊す。
 ポストが鳴き止むと、門扉が、ばうぅんと鳴いた。僕はそれも壊す。
 ブロック塀、敷石、ポーチの柱、傘たて。次から次へと鳴き出し、その度につるはしで壊した。
 玄関ドアに裂け目を入れたら声は止んで、僕は滝のような汗を流して倒れこんだ。
「くぅん」
 ため息の代わりに僕の口から出たのは鳴き声だった。
 仰向けのまま、つるはしを持ちあげようとしてやめた。僕は僕を壊せない。
「しかたない。散歩に行くか」
 僕がそう言うと、
「わんっ」
 リッキーは元気よく返事をした。


作者:葉原あきよ

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コメント

壊し続けても続けても、
壊しきれない最後のものが、
リッキーという命につながる、
不思議な輪のようなものを感じました。
ラストが綺麗に決まった小気味いい話だなぁ。

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