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2008年1月14日 (月)

届きたい


届きたい


 冬で単に寒かったからかも知れないが、なぜだか急に届きたくなって、ポストに身を投げた。赤い外見でも中は暗い。暗い暗いと思っていたら目が慣れて、着いたところは霧の中だった。しばらくすると霧は晴れ、なんとかという滝の裏手に出た。飛び散る水がまったく寒々しいが、カウンターが拵えてあって、幾人もが、酒をあおったり、あたりめを噛んだりしている。そんなことをしていても届きゃしないんだよと思うが、みんな結構満足そうに顔を赤くしているので、口には出せなかったし、思ってしまった自分の方が間違っているような気にもなった。今更、混ざってちょっと一杯ともいえない。しょうがなく、滝壺の袂から架かっているつるはしを渡った。つるはしは細く、心細い。いよいよ届かない気がして、悲しくなる。下を見ると、奈落のようだった。こんな思いをするなら、そろそろ長くなっていたのだし、気分転換に髪でも切るんだった。気持ちはいよいよ重くな
り、ああもう絶対に届かないよ……と、渡り終えたところに床屋があった。見ると田部さんだ。私は嬉しくなってしまって、どうしたんですかこんなところでと駆け寄ると、「いえね、ちょっと出張に」と床屋はいう。


作者:砂場

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コメント

「つるはし」をこういう風に使うんだー、
という驚きがまずありました。
「届きたい」「届かない」「届く」という
語のもつ不安感のようなものを、
うまく描いてあるなぁという感想です。

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