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2017年7月

2017年7月30日 (日)

【結果発表】ガリレオ・ホラー超短編

■■ガリレオ・ホラー超短編の選考結果を発表します。

  選考はガリレオ社長、白縫いさや、タカスギシンタロの三人が行いました。各自、最優秀作品◎1、優秀作品○4、佳作△3作品を選び、最優秀作品を各選者賞としました。また、◎3点、○2点、△1点で計算し、合計得点の一番多い作品をイベント大賞としました。


■大賞:『ショートケーキ』  五十嵐彪太 (社長○いさや○シンタロ◎計7点)

■ガリレオ社長賞:『海の見える丘の家』  胡乱舎猫支店

■白縫いさや賞:『いこくのち』   加楽幽明

■タカスギシンタロ賞:『ショートケーキ』  五十嵐彪太


  受賞者のみなさまおめでとうございます。大賞作品はガリレオ新聞に掲載されます。大賞作品、各選者賞作品はのちほどガリレオHPかこのブログで読めるようにいたしますので、少々お待ちください。

以下に、各選者による全作品評を掲載します。また、選考の点数とは関係ないのですが、ゲスト選者として店員Sさんにも参加していただきました。

(社)……ガリレオ社長
(白)……白縫いさや
(シ)……タカスギシンタロ
(S)……店員S

『嗤—わらう—』   寺家莉冥
 > 高校の帰り、少女は静謐な畦道をひとりで歩いていた。

・処刑された人間のような案山子。その憑依は、主人公が心の奥底で案山子と自分自身を重ねてしまったせいではなかろうか。だとすればラストで腹をかかえて笑いころげる主人公の姿がよけいにつらく怖い。○(シ)
・最後だけ「笑」なのが面白いなあと思いつつ、しかし「嗤」になるのも時間の問題なのかもしれないと予感しました。いつ、何がきっかけでそうなるのか。想像が膨らみます。○(白)
・正統派の和風ホラーですね。なんだかんだ最後の老婆が一番怖い思いをさせられているような……。(社)
・導入がとてもいいですね。もうこれだけで怖い。それから少女に赤色 というところがとても印象的であとに怖さを曳いているような感じがします。(S)

『渡していいものか』   明利英司
 > 台所の床で横たわっていた妻が、むっくりと上半身を起こす。

・妻ははたして台所で起こったことを覚えているのか否か……。「分からない」という恐怖がじわじわと迫ってきます。△(シ)
・渡していいものかと問われればどう見てもNOなわけですが、それでも迷うのは彼個人の気質なのか、彼女の気迫なのか。ホラーというよりはサスペンスという印象が拭いきれません。(白)
・奥さ んにいったい何が起きたのか……旦那さんと一緒に悩んでしまいました。でも包丁を渡すと確実にバッドエンドかと。○(社)
・妻の飄々としたところが怖さを醸し出していますね。円環的な要素もあり、読み終えて初めに戻ると、こんどは夫が怖い。二重におそろしい……。(S)

『白い!』   氷砂糖
 > 一時間後の締め切りに間に合う気がせず、カンヅメ用の部屋を融通してもらう。

・すべての物書きが恐怖する書いても書いても消えるテキストの悪夢。「白」の描写を重ねることで不穏な雰囲気へと誘導する手腕が見事です。白→無(→死)という静かな恐怖にぞくっとしました。○(シ)
・怖いといえば怖いのでしょうが、そもそも自業自得のような。(白)
・SF的な面白さですね。ていうか、書いた文章が消えちゃうの、ちょー怖い……(←しがない物書きのトラウマ)△(社)
・時間の書き込みスピード感を生んで、スラップスティックな笑い、いや怖さを……。ごめんなさい、ふつうに笑いました。(S)

『ショートケーキ』 五十嵐彪太
 > もう何年も、美しいままのショートケーキを見ていない。

・美しく整ったショートケーキが破壊されることの恐ろしさ。まったく肉体的な描写がないにもかかわらず、人体の損傷を連想してしまいます。そしてほのかにエロい。◎(シ)
・かなしい、あるいは愛しいお話だなあ、という印象です。怖いと形容する気にならないのは、夢中でケーキの残骸をほじくる二人が幸せそうに見えるからですね。○(白)
・ぞくりとする怖さ。狂ってる夫婦だけど、現実にこういう人いそうですね。ケーキ屋さんもまさかこんな食べ方をされているとは思うまい……。○(社)
・ケーキの描写が猟奇的殺人現場みたいで素晴らしい。絵や映像には不可能な、小説ならではの怖さの体現だと思いました。(S)

『わずかな明日への期待』   空虹桜
 > 今ならまだ間に合う。あなたはこれを読んではいけない人です。

・この短さで過去改変ものに挑んでいてすばらしい。しかしやめろと言われれば言われるほど超短編を書きたくなってしまう。こわい。(シ)
・だが断る。この白縫いさやが最も好きな事のひとつはお願いと懇願してくるやつに「NO」と断ってやる事だ。と、脳内で即座に再生されてしまいました。おそろしい。(白)
・未来でいったい何が起きたのか? 超短編が引き起こすかもしれない悲劇、という設定に心惹かれます。(社)
・読み手が宙ぶらりんにされる感じがいいですね。法律の施行というひとつ具体的なことが示されるのも、かえって不安感を底上げしていると思います。(S)

『ガケ鬼』   穂坂コウジ
 > ーー鬼が、迫ってくる。

・振り返ると突然断崖絶壁が現れる鬼ごっこ。奇想天外なアイデアにもかかわらずビジュアルがばっちり浮かんできてすごい。△(シ)
・まさに因果応報。後悔と恐怖がないまぜになって迫る構成が巧みです。○(白)
・まさに因果応報ですね。つい遼君視点で読んでしまって、ザマァの爽快感を感じました。(社)

『澱みに浮かぶ』   海音寺ジョー
 > 円盤型のロボット掃除機が、台所の時間塊を吸いこんだ。

・「時間塊」といういくらでも広げられそうなアイデアを、わずか400文字少々で終わられてしまうぜいたくな作品。(シ)
・SF的なギミックが恐怖を理性的なものにしてしまっているように思います。(白)
・SF的なホラー、浦島太郎ですね。掃除機とかカレーとか、小道具のおかげで臨場感があってオチが綺麗で面白かったです。○(社)
・円盤型のロボット掃除機とはつまり現代風にいえばUFOで、キャトルミューティレーション的な説話なのでしょうか。と、思わず想像してしまうような説話が説話を呼ぶ入れ子式の構造。で、ありながら玄関に辿りつかない、昔話や都市伝説より妙に生々しい……。(S)

『海の見える丘の家』   胡乱舎猫支店
 > 海が見える高台に住むのが夢だった。

・説明を省略しているにもかかわらず、複雑な人間関係をそれとなく理解させる表現力がすばらしい。(シ)
・こちらも五十嵐作品同様、怖いというよりは味わい深いですね。若い愛人の本当の顔を知っているのは語り手だけのようです。世間からどう非難されようと、こんな時間を過ごしたかった、というような。△(白)
・ものすごく怖いシチュエーションにも拘わらず、飄々とした主人公とのギャップが面白いです。◎(社長)
・わたし個人の概観として優れた小説には世界の秘密のようなものが作者の意図を離れてそれとなく書かれてしまうものだと思っているのですが、これにはそういう何かを感じた。そういう何かをまえにすると、ただただ「美しい」以外の言葉が出てこなくなるのです。(S)

『夏のおもいで』   胡乱舎猫支店
 > 「甲虫の匂いがする。甘酸っぱいおが屑の匂いが」

・ラスト三行で、それまで構築してきた物語世界そのものを一気に不安定化させる大胆な構成。悪夢のようなおそろしさ。○(シ)
・道理の通らない事象の数々を、「夏のおもいで」という言葉でベールの掛けるそのやり方が個人的には非常に好みです。まるで夢の中のような。△(白)
・突然異世界召喚されたかのような不思議ワールド。主人公も甲虫を探して森へ旅立ってしまうのか……。(社)
・なんでしょう、世界の秘密というものは、たとえば空と海の交わるところ、すなわち水平線のように人間には辿り着けない場所にあるのだと思うのですが、この小説には、そんなゆけるはずのない水平線の向こう側へいってしまうような異常なちからを感じました。そして読み終えてタイトルが素晴らしい。(S)

『悪いバイト』   だんぞう
 > 先輩が突然、胸を押さえて膝から崩れ落ちた。それを合図に僕らも皆一緒に倒れる。

・子どものころみた仮面ライダーショーは、ショーだと分かってはいても、どこかで本当にショッカーの世界に通じているようで怖かった。本作は異世界への入口としてのヒーローショーに着目ししていて共感した。△(シ)
・言葉は呪いで、そのことが端的に表れていて良いですね。個人的な趣味になってしまいますが、最後2行は冗長だったなぁと思います。△(白)
・いったいこの男の子は何者なのか。結局先輩はワルモンだったのか。謎が謎を呼びます……。(社)
・冒頭のショーの倒れる描写に、なにか、異様なリアリティがあり、そのあとに起こる不可解な出来事も、わけがわからないなりに、とにかく起きたんだ、と納得せざるを得ませんでした。もの凄い即物的な強制力というのか、なんというのか。小説家でいうならカフカ、漫画家でいうなら諸星大二郎のような書かれたものが確かにそこにある感じをうけました。(店員S)

『正しい選択』   たなかなつみ
 > 何でも話していいんだよ、と言われた。絶対に悪いようにはしないから、と。

・すべての人が「すべて」を望むが「すべて」はすべての人にとって、手に負えるものではないことを思い知らされる、そんな怖さがある。(シ)
・嘘と真実、人を救うのはどちらか。正解は「どちらも救わない」、という救いのなさはまさに真実なのだろうと思います。正義は筋肉にこそ宿ります。ところでホラーという枠で語るテーマではないかなと。(白)
・究極のSMとはこんな感じなのでしょうか。絶望的な痛みは 一瞬で終わり、死んで解放されて嬉しい、というエピローグが浮かびました。△(社)
・とてもきわどい、すれすれのところを縫ってゆくような小説だと思いました。ひじょうに抽象として漠然とした語り口が、さいごに痛みの一点に集約される、その過程のすれすれさ。「痛くて苦しくて重いのに、それさえもが楽しくてならない」矛盾している表現なのに、そうとしかありえない、このすれすれさ……。(S)

『夏の思い出・オブ・ザ・デッド』   加楽幽明
> 雪山で遭難した友が、この夏生ける屍となって訪ねてきた。

・生ける屍と対話しているときよりも、それが去ったあとの生臭い匂いにぞっとしました。(シ)
・言い方が適切かどうかわかりませんが、解凍したての頃はさぞや生き生きとしていたのだろうなぁと想像して面白くなりました。冬と夏の対比が効いているように思います。△(白)
・世にも奇妙な感じのお話でした。死者と生者の立場が逆転する、というアイデアが面白いです。○(社長)
・やはり小説はにおいを書かなければならない、うんうん、そうだよな、と思わずひとりで頷いてしまいました。映画にも漫画にもにおいがない。でも小説のばあいは、文字に書きさえすればにおいを喚起することができる。雪山や冷房のひそやかさに対置された、夏、屍臭、ゾクゾクしました。(S)


『いこくのち』   加楽幽明
> 旅先の池の畔で少年少女たちが、のたうち回るずだ袋を水底に沈めようとしていた。

・黒い猫のような生き物はいったい何だったのだろう。どうして水に関わる事故だったのか。なんで怪異は主人公の国の言葉を話すのか。なぞがなぞを呼びどんどん怖くなるお話。○(シ)
・非常に完成度が高いです。人によっては、もっと長い文章で読みたい、などの要望があるかもしれませんが、個人的にはこの作品はこれで十分であるように思います。「のたうち回るずた袋」はたった9文字ですが、そこから広がる情景は文字数以上でなおかつ作品の中で重要な役割を果たしています。少ない制限文字数の中で言葉の選択やその並べ方にレバレッジを効かせて情景を豊かなものにするのは、超短編が最も得意とする技法であるように思います。◎(白)
・一読しただけでは、どちらが悪者なのか分からず、何度も読んでも結局分からず。そうやって悩まされる感じがまた楽しい。(社長)
・この世にはごくごく稀に、世界の何とも関係をもたず、ただ一塊の文章のみでそれ自体が自足している、宙に浮かんだ球体のような小説があるけれど(たとえばゴーゴリの外套とか)、そのたぐいの小説だと思いました。話としてはきちんと筋が通っていて、でも、読み終えてみるとまったく意味がわからない。というより意味がない。だから世界と関係の持ちようがない。たぶん、もの凄く繊細につくられた文章で、その繊細さ故に、触ろうとすればハラハラと崩れ落ちてしまうのだけど、宙に浮かんでいるから誰の手にも触れられない。(S)

『不穏なデート』   葉原あきよ
>手も触れていないのに勝手に開く扉を入ると、首がない人形の列に出迎えられた。

・妖しすぎる男が買ってくれたドレスは、おそらくこのあと出かけるパティーのためのものだろう。だがそのパーティーに出席すのは今の彼女ではなく、きっと別のなにかに変容させられた彼女にちがいない。 (シ)
・リア充なパーリーピーポーに囲まれるとそんな心地になりますよね。カルチャーショックと言えば聞こえはいいでしょうが、埋まらない溝もあることでしょう。さて、ところで彼女はどこから来た人なのでしょうか。(白)
・これはホラーなのか、もしくは主人公のメンタルがヤバイのか……。いずれにせよ、オフショルダーでデコルテが呪文に聞こえるのは重症でしょう。(社)

『よるの階段』   影絵が趣味
> ふと、アパートの外階段を折り返すとき、怖ろしさにとらわれることがあります。

・アパートに着いたときから、部屋に入るまでのわずかな時間の物語。情景描写、心理描写を尽くしてぐぐっと高まっていく恐怖心を描いたところが趣向です。(シ)
・昔は真夜中のトイレは怖かったものですが、今では電気をつけるのも億劫で真っ暗な中で用を足すことに何の抵抗もなくなってしまいました。目に見えないけどそこにいるかもしれない何かを畏れる気持ちは忘れずにいたいものです。(白)
・暗闇というものに感じる恐怖感が、リアルに描かれていると思います。たぶんその部屋にはクトルゥフ的な何かが潜んでいるのではないかと……。(社)

2017年7月18日 (火)

販売員   タカスギシンタロ

 販売員  タカスギシンタロ

 客はショーケースの商品をあれこれ眺めていた。
「これはどう使うんですか?」
 彼女は干しエビを指さした。わたしは白手袋で干しエビをつまみ上げ、説明する。
「そのまま指にはめてピンキーリングとしてお使いいただけますし、シンプルなゴールド・チェーンに通せばペンダント・トップとしても素敵ですよ」
 女性はなるほどとうなずきながらも、ちらちらと別の商品に目をやっている。しかしわたしは気づかないふりをする。
「これはまたずいぶん大きいですね」
「伊勢エビの海鮮蒸しですね。こちらはベルトのバックルなのですが、インパクトのある髪留めとしてご利用なさるお客さまもいらっしゃいます」
 なるほどねと彼女はうなずく。しかし心が伊勢エビにないのは明白だ。
「えっと、あそこにあるあれは……」
「ああ、あちらですか」
 わたしはなるべくさりげないしぐさでぶら下がったエビフライを手にとる。
「良いものですよ」
 そう言いながら彼女の耳に当てる。傍から見てもときめきが伝わってくる。
「実はこれ、ちょっと秘密があるんです」
 衣の一部を外すと、中からほんのり赤みを帯びたエビが現れた。彼女の顔がぱっと明るくなる。鏡を見ながら満足げな様子だ。彼女はぽつりとつぶやく。
「なんだかおいしそう」
 彼女とわたしは笑い合った。
「これ、いただきます」
「ありがとうございます。タルタルソースはおつけしますか?」
「お願いします」
「お箸は?」
「お箸はけっこうです。あ、レシートも」
 彼女はレジ袋をぶら下げ、店を出た。入れ違いに着飾った女性が入ってきた。その瞬間、客の関心がテナガエビにあることを確信する。
「いらっしゃいませ」
 わたしは深々とお辞儀した。

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