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2017年7月18日 (火)

販売員   タカスギシンタロ

 販売員  タカスギシンタロ

 客はショーケースの商品をあれこれ眺めていた。
「これはどう使うんですか?」
 彼女は干しエビを指さした。わたしは白手袋で干しエビをつまみ上げ、説明する。
「そのまま指にはめてピンキーリングとしてお使いいただけますし、シンプルなゴールド・チェーンに通せばペンダント・トップとしても素敵ですよ」
 女性はなるほどとうなずきながらも、ちらちらと別の商品に目をやっている。しかしわたしは気づかないふりをする。
「これはまたずいぶん大きいですね」
「伊勢エビの海鮮蒸しですね。こちらはベルトのバックルなのですが、インパクトのある髪留めとしてご利用なさるお客さまもいらっしゃいます」
 なるほどねと彼女はうなずく。しかし心が伊勢エビにないのは明白だ。
「えっと、あそこにあるあれは……」
「ああ、あちらですか」
 わたしはなるべくさりげないしぐさでぶら下がったエビフライを手にとる。
「良いものですよ」
 そう言いながら彼女の耳に当てる。傍から見てもときめきが伝わってくる。
「実はこれ、ちょっと秘密があるんです」
 衣の一部を外すと、中からほんのり赤みを帯びたエビが現れた。彼女の顔がぱっと明るくなる。鏡を見ながら満足げな様子だ。彼女はぽつりとつぶやく。
「なんだかおいしそう」
 彼女とわたしは笑い合った。
「これ、いただきます」
「ありがとうございます。タルタルソースはおつけしますか?」
「お願いします」
「お箸は?」
「お箸はけっこうです。あ、レシートも」
 彼女はレジ袋をぶら下げ、店を出た。入れ違いに着飾った女性が入ってきた。その瞬間、客の関心がテナガエビにあることを確信する。
「いらっしゃいませ」
 わたしは深々とお辞儀した。

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