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2018年1月31日 (水)

【発表】「もうすぐオトナの超短編」千百十一選

■■超短編20周年記念企画「もうすぐオトナの超短編」千百十一選結果発表

■兼題部門「年の暮れ」
【最優秀賞】
夜になるとわたしたちは眠る      たなかなつみ

【優秀賞】
晦冥・ゆらぎ   佐多椋
説得    春名トモコ

■自由題部門
【最優秀賞】
運命の恋   春名トモコ

【優秀賞】
水溶性の仕事   たなかなつみ

くわしい選者評は以下をご覧ください。

■■選者評

■兼題部門 最優秀賞

□夜になるとわたしたちは眠る   たなかなつみ 

 機械の心の内側からそっと聞こえる「イエス」「ノー」の声が静謐さを醸し出しています。意味が分からなくても、浮かんできた言葉を書き続けるのは詩人の営みですね。全体にまつわる明るさは、「古いスーツケースに少しの衣類とノートとペン」という夢のような旅支度と、落ち着いた諦念のせいでしょうか。まぶしい斜陽から夜へ向かう時間と生の時間の暮れ、年の暮れ、たいへん美しく響きあっていると思います。

■兼題部門 優秀賞

□晦冥・ゆらぎ   佐多椋

 何の「特別」もないまま世の中から取り残される焦燥感は普遍的なものではないでしょうか。ともすれば愚痴っぽくなりそうな題材を、攻撃的にならずに抑えて扱っていると思います。寒さや苦しさを丁寧に伝えてくる表現をたどりながら、弱くかすかな言葉にしんみりと聞き入りました。最後の一文に罪悪感さえ覚えます。

□説得   春名トモコ

 コミカルな一幕も好きです。短い中でも登場人物のキャラが立っているのは上手いですね。各人(と餅)の声や顔つきが浮かんできますし、「私」もその中にちゃんと参画しているので、登場人物がきちんと使われている印象を受けました。最初のシチュエーションから、お正月らしく楽しく膨らませています。

■兼題部門 そのほかの作品

□出てゆく年、帰ってくる年   葉原あきよ

 奥様が粒あんなら、旦那様は何なのだろう? どうも人間のようですが、旦那さんと奥さんのコミュニケーションの仕方をにおわせるなど、もう一言ないとどうもしっくりと絵が描けなくて。もっとも、そんなことを気にせず、シチュエーションとやりとりを楽しめばいいのでしょう。「そう来ましたか!」という展開はたしかに楽しかったです。

□年の暮れ狂想曲   氷砂糖

 「師走」からの連想ですが、言葉の勢いや表現のバリエーションに凝っているようです。朗読などの題材にしたら工夫のし甲斐があるのではないでしょうか(誰かやってほしい)。鐘が鳴ったところでまだラスト一周とは、なかなかの押し迫り方。最後まで加速して振り切っていますね。

□年の暮れに   海音寺ジョー

 なんか、ざらっとしますね。「知らん」あたりのややぞんざいな言葉や、仔猫について「良質」と値踏みする表現のような端々から、主人公はどうも優しいわけでもなさそうな気がします。自称両親をほのぼの受け入れているわりに幸せな感じがしない……投げやりなのかも。読後にこちらの感情の持っていき場に迷うような、妙な雰囲気の作品でした。

□EVIL   穂坂コウジ

 タイトルに頭をひねった後、念のため辞書で確認しようと打ち込んでたら気が付きました(遅いでしょうか)。前から読むのと後から読むのとで明と暗に意味が裏返るような単語を、うまく見つけられたものだと思います。ただ惜しむらくは、ちょっと前向き過ぎて(時間は後ろ向きなのに!)「EVIL」感が薄い気がします……人生160年とはお疲れ様です。

□この世のどこでもない場所   空虹桜

 だじゃれ自体は場合によっては別にいいのですが、恣意的に設定できる固有名詞を使うのはちょっとずるいと思います。雪国の雰囲気がこれだけリアルに出ているのに、全体がこのだじゃれのためだけになってしまうと勿体ない。雪かきの徒労感、ママさんダンプという雪国出身者しかたぶん知らない小道具などが良かったです。

□もうすぐ   白縫いさや

 除夜の鐘はいいものですね。大人の時間をよそに寝かしつけられる子供というのは、当時は不本意だったかも知れませんが、思い出になると懐かしいものなのでしょう。当時の家族がもういなくなったような歳で、一人で除夜の鐘を聞く主人公を思うと、なんでもない情景がたいへん抒情的に思えてきます。

□優しい脚   といじま

 けっこう時間をかけて読解しようとしたのですが、最後の「炬燵の脚が4本」云々がまだ読み解けていません。その一文がなければまあ、幸せなカップルの情景ですね、ということになってしまうので、とても大事な一文なのではと思うのですが……。「炬燵」の項を見に行って、たしかに4本と書かれていないことは確認しました。

□肉が布団   井口可奈

 あまりといえばあまりのシチュエーションで、どうしたものか何とも困った作品でした。逆選があったら、「この世のどこでもない場所」のだじゃれと競った挙句にこちらを選びそうな気がします。豪勢とはいえ、肉って12月の夜には寒くないですか。その肉は後日食べるんですか。寝間着は? うーん、詳細気になる。


■自由題部門 最優秀賞

□運命の恋   春名トモコ

 ふいに襲ってくる自分でも分からない感情、あるかもしれない。掴みから、正体を明かし、感情を深め、最後をきれいにまとめ、超短編の語り方のお手本のようだと思いました。満員の通勤電車なら、同じ時間に同じ場所に乗っていたら今後もしかして? と少し期待してしまいます。自由題ではありますが、冬の募集ならではの作品でした。

■自由題部門 優秀賞

□水溶性の仕事   たなかなつみ

 個というものがなく、働いて眠るだけの日々。こう書くとつらいのに「水溶性」のおかげで、全てゆるやかに水に流されていくような印象を受けます。個であることに疲れたとき、こうして集合的な意識の中で溶けてまどろむことができたら……まるでこの物語は誘惑するようです。

■自由題部門そのほかの作品

□ボーフラ文庫の打ち明け話  海音寺ジョー

 詩歌関係の名書店「葉ね文庫」をモデルにして、超短編の人たちが東京で行きつけとする食堂「みじんこ洞」の名を借りたような? いずれも有難いお店です。いいお店があると、周りに自然に常連の仲間はできていくものでしょうが、店主さんが「コミュニティとして閉じたくない」という心意気を持っている方が、きっと誰にとっても居心地がいいと思います。


□学名:ヒノデ   穂坂コウジ

 この短さは手練れすぎて、私が賞を出すなどおこがましい! という気持ちで敢えて別格の選外です。新年にふさわしい超短編を、ありがとうございました。「学名」「地球の」ほんの一言で、いっぺんに雰囲気が出るものですね。効果的な取捨選択は本当に難しい。

以上。

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