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2018年7月 3日 (火)

【発表】「もうすぐオトナの超短編」峯岸可弥選(兼題:暴力)

■■超短編20周年記念企画「もうすぐオトナの超短編」峯岸可弥選結果発表

■兼題部門「暴力」

【優秀賞】
パーマネントのばら 西原理恵子 (投稿作品ではありません)

【佳作】
ホームルーム   胡乱舎猫支店

【次点】
花の檻   穂坂コウジ

【並選】
すてきな二人   氷砂糖
消しゴム   千百十一
クラシフィケーション   たなかなつみ
プラスチック製短下肢装具   海音寺ジョー
公園の墓場   元木一人
骨を埋める   葉原あきよ

■自由題部門

優秀賞該当作品なし


くわしい選者評は以下をご覧ください。

■■選者評

 多少は予想していたのですが、戦争・テロ・虐殺・傷害・破壊・犯罪などといった直截的な暴力が扱われていなかったり、扱われていてもその程度は比較的軽いものが多かったと思います。その代わりに構造的暴力*1や文化的暴力*2に重点が置かれているものが多かった印象を受けました。各々が選者の好みを忖度したか、あるいは他の投稿者の多くがそういう作品を送るだろうという推測からくる戦略か。いずれにせよその点に関しては少しだけ残念でした。投稿してくださった方々が暴力の多様さを求めるあまり、却ってその多様さが損なわれてしまったとしたら皮肉です。
 暴力的な物語の例として個人的には新美南吉『てぶくろを買いに』を挙げることがあり、そのことがタカスギさんから事前にアナウンスされていたのも一因なのかも知れません。この『てぶくろを買いに』の暴力性については、佐多椋くんの『超短編を読む、書く。 -process #2』*3で受けたインタビューに関連する箇所がありますので、興味のある方はこちらも手にとって貰えればと。


*1 通常の暴力(直接的暴力/行為者暴力)とは違い、社会制度や社会構造などに根差しており本来的な加害者(行為主体)が特定され難い種類の暴力。貧困、差別、抑圧、不平等など。

*2 暴力を容認する意識や思想、あるいは暴力に関する無理解や無関心など。直接的暴力や構造的暴力の正当化・合法化の土台となる。

*3 http://p.booklog.jp/book/122249/


■兼題部門優秀賞
□パーマネントのばら 西原理恵子

 投稿作の選考をしている最中たまたま読んだ作品。好みの種類の暴力が色濃く描かれていたので、(もちろん投稿作ではありませんが)これを優秀賞に推したいと思います。


■兼題部門佳作
□ホームルーム   胡乱舎猫支店

 子供の「子供である」という属性そのものが、広義の暴力とが分かちがたく結びついていると思います。社会や大人から保護されなければならない存在であるということは、(保護されることで一部の自由や権利が守られる反面)社会的な規範などによって一部の自由や権利が奪われていることと併発しています。知識や精神や身体が発達していないという自身の能力の低さ、行動範囲や人間関係の狭さ、経済力のなさなど多くの不自由が暴力として立ちはだかっているのです。
 子供の為に必要不可欠な規制(パタナリズム)も、その子供にとっては暴力として機能することもあります。またパタナリズムに見せかけた、単に不合理なだけの暴力も存在しているでしょう。 

 この作品では羽や鰓のある子どもたちに対する教師(?)のやりとりという童話のような語り口で、大人の不合理さやコミュニケーションの断絶などが描かれており、どこか禍々しい。
 夜中に子供たちだけで海や空へ行かねばならない目的は不明ですが、単なる遠足などではなさそうです。子供たちにとって理不尽な目的地が指定され、うっすら不穏な空気が漂っている。文字通り「子供だまし」でもって子供には楽しい遠足だと思わせようとする大人たちの胡散臭さが際立っています。


■兼題部門次点
□花の檻   穂坂コウジ

 警察など、実力行使を伴う公的な権力は「暴力装置」とも呼ばれます。刑務所とは自由刑として犯罪を犯した人間の自由を著しく奪う暴力装置の一つと言えます。
 また内心の自由は民主主義の基本的な条件の一つであり、基本的人権の大きな柱です。日本国憲法においても「思想・良心の自由」として保障されています。思想そのものの弾圧は特に大きな暴力と言えるでしょう。

 作中、直截的な暴力を扱う描写はありません。ただ、色とりどりの花で飾られた綺麗な部屋で歌のレッスンを受けるだけです。異化効果が利いています。
 歌が上達すれば上達するほどにこうした制度に取り込まれ、本質的な意味での「自由」が堅固に縛り上げられてしまってゆくようです。

■兼題部門並選
□すてきな二人   氷砂糖

「水男とアリスはとても仲の良いカップルです」と繰り返されますが、作品全体には共依存によるIPV(ないしDV)が描かれており不穏です。
 一見鷹揚に見える水男とアリスとでは暴力における力関係が歴然として存在し、アリスは何をしても水男に肉体的な被害を与えられない一方で、水男が少しアリスを抱きしめただけでアリスを溺死させてしまうことも出来ます。「仲の良いカップルです」と繰り返されるたびに、関係性の不均衡が際立つ。

 相手に苦痛を与えなければその相手を抱きしめることが出来ないという水男の身体性は、水男自身にとって必ずしも幸せとは言えないかも知れません――彼自身がそれを自覚しているかどうかは別として。


□消しゴム   千百十一

 親が子から受ける「子どもという暴力」が、親が子へ与える「親という暴力」へ再生産される様を描いていると読みました。
 子供が大人による暴力を受けやすいのは勿論ですが親にとっても我が子の存在そのものが広義の暴力として機能されることがあり、そうした暴力は可視化されにくい分だけ問題が根深い。自らの苦しみを訴えたところで周囲からは「単なる甘え」という風に叩かれ、却って自らの人格や親としての資質を貶められるだけだという不安に出口をふさがれてしまえば、本来は最も愛すべき我が子への暴力に逃げ道を求めてしまうことがあるのかも知れません。

 親子に限らず家族という関係は、他より関係が深い分その暴力性もまた濃密になることがあります。
 例えば殺人事件自体の認知件数・発生率は社会が豊かになるにつれ減少していますが、家族間の殺人事件の発生率はほぼ横ばいであり、相対的にはその割合が増大している傾向にあると言えます。家族ことに親子という関係は時代に左右されにくい普遍的な問題を孕んでいるのでしょう。

□クラシフィケーション   たなかなつみ  

「暴力」には「自由を制限されること」が含まれます。ほぼイコールと言って良いかも知れません。
 恋愛や宗教は本来的には人を幸せに導くものですが、人を不幸に突き落す暴力性を孕んでもいます。この作品の語り手のように愛している対象に(半ば自ら)縛られている状態からはなかなか抜け出せないものなのでしょうか。


□プラスチック製短下肢装具   海音寺ジョー

 暴力の概念を最広義に解釈すれば、四肢の障害や「老い」という逃れられない身体的な変化や機能低下もまた暴力の一種として捉えることができるでしょうし、それらに伴う状況や環境の変化などもまた暴力として機能する場合がある。
 ただ作品としては自己の身体性による暴力を描くというより、逆に老いや障害と上手く折り合いをつけることで寧ろそれらが暴力とはならないということが描かれているように読みました。その意味からは、寧ろ今回の募集テーマとは逆行してしまったかと。

 以下、蛇足です。
 刑務所等は「暴力装置」であると書きました。作中では雑居房よりも独居房の方がましという風に書かれており一般にもそう考える向きも多いのですが、実際には独居房の方が雑居房以上に辛い場合があります。一日中他人と接することのない収監方法は「昼夜間独居」あるいは「昼夜単独室処遇」と呼ばれます。この「昼夜間独居」は受刑者の精神的な苦痛が強く、「拘禁反応」(長期間に及ぶ自由を拘束された状態が続くことで起こると精神障害)も出やすい。
 とはいえ刑務官からすると囚人を独居させた方が管理が楽なので(喧嘩などのトラブルが起きる可能性がない)、独居させたがる傾向があると言います。こうした収監方法をはじめ刑務官の囚人に対する振る舞い、代用監獄、入国監理局による収容施設への長期収容、精神障害者の強制的な長期入院などには国連拷問禁止委員会や国連人権理事会などを筆頭に国際的な批判が集まっている現状があります。


□公園の墓場   元木一人

 子供という属性そのものが暴力の被害と分かちがたく結びついていると言いましたが、子供は知識・経験・注意力・想像力の欠如や無邪気さから暴力行為の主体となる場面も少なくありません。その暴力は意識的でも無意識にでもどちらもあり得るでしょう。

 全投稿作の中で最も長かった作品。文字数は500文字以内ではあるのですが、もっと長いサイズで描かれるべきという印象を受けました。
 正直、しっかりと作品内容を読み取れなかったので評をするのが難しい。単なる「思わせぶり」と「外に物語が広がっている」ということの境界が何なのかを説明するのは難しいですが、この作品では若干前者に寄っている気がしました。


□骨を埋める   葉原あきよ  

 自分の出生が父親に望まれていなかったこと(ないし、そう思われてしまうこと)も含めて、特定の家族形態に社会の片親に対する無理解などは確かに暴力の一種と言えますし、またこの母親にとって自らの娘に嘘をつき続けなければならなかった心の有り様にもまた暴力が介在していると見做すことはできる。ですが、この作品もそうした暴力よりも「暴力からの恢復・再生」に重きが置かれていると思います。その点では今回の募集したテーマからすると推しにくい。
 加えて何となく「手癖」のみで書かれている印象もあり、今回もし逆選を付けるのであればこの作品に。

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