2008年1月23日 (水)

「酒に罪なし」(川崎隆章)

  超短編マッチ箱の第一号を作ろうとしたとき「小さくてデザイン的にきれいな本」にしようというコンセプトがすぐに決まりました。そのコンセプトのほとんどの部分を美柑和俊さんとイワミヒロキさんに担っていただいているわけですが、ともかく七号まで発行できたということは、最初の考え方が間違っていなかったことの証明でもあると思います。えっへん。
  しかし、おおまかな方向は決まっていたものの、冊子づくりは手探り状態で、第一号では超短編作品に加えてエッセイも載せることにしました。そんなわけで、今回紹介する川崎隆章さんの「酒に罪なし」の連載は超短編マッチ箱の第一号からスタートしたのです。
  「怪しい酒の話を書いてください」とお願いしたところ、川崎さんはいっぺんに六本もの作品を書いてきてくれました。じつは、今回掲載したエッセイ二本のうちの「幻の赤ワイン」はそのときに書いていただいたものなのです。ですから五年半くらい前の原稿が、今回やっと日の目を見たということになります。ほんと、ゆったりと息の長い冊子なのですよ、超短編マッチ箱は。
  もう一本の方のお話「恋」はもちろん、今回の特集のために書き下ろしていただいたもの。川崎流「恋」の飲み干し方にしびれていただきたいショート・エッセイです。
  ぼくが思うに、超短編と酒はバツグンに相性が良い。だからこれからもちょくちょく川崎さんには「酒に罪なし」の原稿をお願いすることになると思います。ここだけの話、まだつかってない熟成中の原稿も残っていることですし。

2008年1月16日 (水)

「サファイア」(タカスギシンタロ)

  松本楽志とタカスギシンタロの作品は、かならず超短編マッチ箱に載ることになっています。むかしからそういう風に決まっているので、それでいいのです。
  そんななわけでぼくの作品もどこかに載せなければなりません。今回、超短編マッチ箱7号は宮田真司の「あなたが好きです」という壮大なスケールの作品からはじまっています。そこで、やはり最後も宇宙的なものがたりで閉めようと考え、「サファイア」を超短編の最後にもってくることにしたのです。
  本作は、500文字の心臓のトーナメント用に書かれたもので、元のタイトルは「恋とサファイア」でした。この話はぼくの作品にはめずらしく、むかし書いた「火星の宝石箱」という長編が元になっています。原稿用紙250枚のジュブナイルなんて、今のぼくには到底書けないしろものです。今回はどこでなにが役立つかわからないからゴミみたいなものでもとっておく価値はある……という教訓的なおはなしでした。

2007年12月22日 (土)

「延長また延長」(タキガワ)

  天才的、と思える超短編作家は、たとえば伝助さんとかひまわりさんとか、ぱっと浮かぶのはそのあたりでしょうか。いや、忘れてはならないのがタキガワさんです。こっちがいくら論理を積み重ねようと、そんなものをやすやすと飛び越えてしまうぶっ飛んだ才能を、タキガワさんはもっているように感じます。
  いつかのオフ会で、みねぎしがタキガワさんにパソコンのショートカットを教えていたことがあります。「コマンド+Sで保存」ということはタキガワさんにも理解できたようなのですが、ところが彼女いわく「で、そもそもなんで“保存”する必要があるんですか?」と。
  これにはさすがのみねぎしも答えに窮してしまいました。そう、メールの返信はいちいち引用文を打ち直し、カット&ペーストは文字通りハサミと糊で紙を切り張りするタキガワさんにとって、パソコンにテキストを保存するなどというのは、小さいことなのでありました。
  とはいえ、タキガワさんの作風はけっして奇をてらったものではありません。むしろていねいにことばを選ぶことによって現れる、ぎりぎりのフォルムのうつくしさを追求しているようなのです。その意味で、まさに本格派の超短編作家だとぼくは思っています。
  今回収録した「延長また延長」は500文字の心臓の第20回競作への投稿作。今にして思えば、メール操作も怪しいタキガワさんが超々短編広場や500文字の心臓に参加していたこと自体が奇蹟とも思えます。そんな奇蹟を乗り越えてタキガワ作品に出合えたことをうれしく思うのでした。

  2006年10月、日暮里の夕やけだんだんで「天の尺」というイベントが行なわれました。階段の手すりに貼られた点字の物語を、視覚障害者と晴眼者が協力して読み上るという、ちょっとふしぎなイベントだったのですが、そこに、タキガワさんも作品を送っていました。しかもわざわざイベント会場に来て、点字化されたご自身の作品を、点字のマニュアル片手に、じっと読んでいるではありませんか。30分くらいたってふと見たのですが、タキガワさんはおなじ場所におなじ姿勢でまだ立っておりました。

2007年12月12日 (水)

「ちゃぷちゃぷ」(根多加良)

  初登場作家シリーズの最後を飾るのが、ねたかんこと根多加良さんです。「根加多良」となまえを間違えて覚えているひとも多いと思いますが、逆さから読むと「ヨカッタネ」となる方が正解です。
  さて今回収録の作品はだいたいぼくが選んだのですが、松本楽志もいくつか心当たりがあるというので、ぼくは十作くらい選んだところで作品収集を一時ストップしておりました。マッチ箱にはだいたい10から12作品くらい載せられるので、最後の方はけっこう滑り込みの作品があるのです。で、今回の滑り込み作品が、がくしセレクトの「ちゃぷちゃぷ」。この作品はもともと500文字の心臓の自由題の第20回でぼくが選んだものだったので、もちろん採用に異論はありません。
  今回は「恋」の特集ということもあり、やや抑制の効いたレンアイ作品が多いのですが、そのなかでこの「ちゃぷちゃぷ」は少なくとも肉体的には直接のふれあいがあり、目を引くと思います。しかし本作の一見なまめかしい表現も、水との透明な戯れを通して、すべては流れゆく清らかさへと変換されていくようなのです。だからちっともいやらしくありません。それにしてもなんと大きな安らぎと悲しみをたたえた川でしょう。超短編としては長い部類に入る作品ですが、ことばひとつひとつが良く吟味されていて、けっして飽きることはありません。
  根多加さんを知っている人がこの作品を読めば、きっと彼のことを見直すと思います。またこの作品を読んではじめて根多加さんに会ったというひとは……どうかがっかりしないでね。というほど良い作品だということです。はい。

2007年12月 5日 (水)

「恋」(たなかなつみ)

  いまから8年以上前になるでしょうか。ぼくはencoさんに「こんなさいとがあるわよー」と紹介されて、ASAHIネットのコンテンツ「超々短編広場」に投稿をはじめました。そのときは番組がはじまってから何か月か経っていましたから、もうすでに今回紹介するたなかなつみさんは広場の常連でした。
  何作か投稿作が掲載されたので、ぼくはもうちょっと超短編に深入りしたくなって、メーリングリストに入ってみました。すると入るなり、なにやらメーリングリストがただならぬ雰囲気です。詳細は省きますが、今回掲載した「恋」をめぐってちょっとしたごたごたがあったのでした。騒動はすぐにおさまりましたが、正直なところ「たいへんなところに来てしまった」と思いました。今ではなつかしい思い出です。

  そんなわけで「恋」はたなかなつみ作の中でも、記憶に残る作品なのです。かなり昔の作品ですが、やはりたなか作だなあと思うのは、絶望をうすうす感じながらも、それに気づいてしまっては幸福は消えてしまうかもしれないという、不安なこころのありようが描かれているところです。もしかするとこの恋は7号収録の恋の中でもいちばんつらい「恋」かも知れません。
  ちなみに、この作品は当初は「仮面」というタイトルで、仮面をかぶった妻とその夫のものがたりだったようです。収録作とシチュエーションは違いますが、どちらにも登場する仮面が、じっさいは本質的なテーマなのかも知れません。

  じつは7号の隠しテーマは“初”なのですが、この作品はぼくのたなかなつみ作への初恋だったのかもしれません。その後8年間もたなか作を読むことができたとなれば、この初恋はある意味、成就したとも言えるでしょう。たなかさんにはこれからも良い作品を書いてもらいたいと思います。もちろん仮面は外してね。

  ところで
  中日ドラゴンズ優勝にうかれるたなかなつみは、そのえくぼで有名ですが、えくぼの裏側にはえくぼに対応するでっぱりがあることを知る人は少ないと思います。そのでっぱりを称して“えくび”というらしいです。ウソのようなホントの話。のようなウソ。

2007年12月 2日 (日)

「散髪」(鈴木寿司子)

  寿司子さんは友人の奥さんです。Webで日記を書いていて、とくにその夢日記は、段ボールに乗って新婚旅行にいったりと、荒唐無稽を通り越してもはや幻想的ですらあります。今回収録した「散髪」は夢の話ではなく現実の話らしいのですが、本人が現実だと思っているだけの夢の話かも知れません。
  寿司子さんはほんとうはとても美人なのですが、いつもゾンビの物まね(ソックリ)をしているので、そのことに気付いていないひとも多いかも知れません。長い髪を脇の下にはさむ「わき毛」のネタは先日マンジュさんに伝授しましたが、もとはといえば寿司子さんのもちネタのひとつなのです。そもそも寿司子さんのペンネームは掲載直前に決まったもので、そのまえは「鈴木みはめそ」でした……。
  そんな寿司子さんは自他共に認める魚好き。見るのも食べるのも大好きで、とくに海の魚を愛しています。関東一円のさかな祭りを追いかけて週末を過ごすほどの魚狂いの彼女。だから1行コメントでもさかなを要求しているのでした。そんなわけで相談にのっていただけますか? お礼はシラス一匹ですが……。

2007年11月28日 (水)

「裏返し」(葉原あきよ)

  あきよさんとは、2004年11月14日に開催された第3回文学フリマで出会いました。青島さかなさんが「超短編っぽいのがある」と教えてくれたので、ぼくはさっそくオレンジ宇宙工場のブースを訪れてみました。あきよさんはひとりでぽわんと座っていて、商品も今ほどたくさんはありませんでした。超短編の宣伝をしつつ「ノスタルジア」「メランコリア」「なみだのしずく」「花猫ロケット」を購入。それら冊子もすばらしいかったのですが、無料で配っているフライヤーのようなものがあって、そこに載っていた作品が超短編テイストで、ぼくはとっても気に入りました。

  じつは今回掲載した「裏返し」も、たしかその時に読んだものでした。ぼくは勝手に“裏返し”にするものを座布団だと勘違いして憶えていて、あきよさんに「あの座布団ひっくり返すやつ」とメールしたら「ひょっとしてこれですか?」と送られてきたのがこの作品。座布団ではなくて正解は“テーブルクロス”でした。ぜんぜんちがったけど、でもやっぱり良い作品に変わりありません。最初の印象を尊重して、やはりこれをマッチ箱に載せることにしました。

  7号は今まで載せていなかったひとをたくさん載せようというコンセプトだったのですが、その筆頭が葉原あきよさんでした。何を隠そうぼくはけっこうなあきよファンで、“しかくいひと”や“魂くん”だってもっているのです。“しかくいひと”はちょうどあきよさんが病気をされていたときだったので、治療費の足しにでもなればと購入しました(300円ですが)。なとどいいつつ一万二千円の「キャラメル豆本」を買ってしまいそうな勢いなのです。

2007年11月24日 (土)

「星の王子さま」(岡田若菜)

  2006年1月29日(日)、第一回まめまつりが開かれました。このときたまたま隣のブースだったのがのちにマメBOOKSで活動を共にする雲泥流さんなのですが、今回はそのときはじめて出合ったもうひとりの作家、岡田若菜さんのお話です。

  まめまつりの超短編マッチ箱のブースには、例によって入れ替わり立ち替わり、さまざまな超短編作家が訪れます。そのほとんどみんなが判で押したように「あれ良かったよ」と推奨したのが岡田若菜さんの作品。じつはぼくも岡田さんの豆本「カエルの毛皮」に一目ぼれして購入していたのでした。シニカルな笑いと老練な書き振りに、ぼくは作家としてのものすごい“集中”をみました。ていねいで細部まで意識が行き届いた仕事というものは、なんであれひとを感動させずにおかないということを、彼女はその豆本で教えてくれたのです。
  これはもう超短編マッチ箱に招待しないわけにはいきません。若菜さんに限っては、とにかくマッチ箱にその作品を載せたいので、今回のテーマ「恋」に沿って自由に書いていただきました。そして送っていただいた作品が「星の王子さま」なのです。描かれているのは、笑えるような悲しいような、過剰な愛のカラマワリ。さらりとしていながら隙のない、すてきな詩ものがたりを掲載することができました。

  まめBOOKSで展示活動を共にしている若菜さんですが、じつはまめまつりの売り場で対応していただいたとき以外、ぼくはまだ正式にお会いしたことがないのです。2007年11月20日の朗読会には東京にいらしたらしいのですが、残念ながらお会いできませんでした。そんなわけで、ぼくにとって“岡田若菜”はいまだ神秘的な作家なのでした。

2007年11月20日 (火)

「ウィスタリアのライン」(五十嵐彪太)

  「あれ、この人まだマッチ箱に載せていなかったっけ?」というようなひとが何人もいます。五十嵐彪太さんもそのひとりでした。7号は今までに掲載されたことのないひとを多く載せようというコンセプトなので、もちろん五十嵐さんにもここらで登場していただかねばなりません。
  五十嵐さんのサイトをめぐってぼくが気に入ったのが、この「ウィスタリアのライン」。本来は「色」の連作らしいのですが、この作品だけ抜き出しても藤色のあざやかさにクラッとさせられます。三本のウィスタリアのラインをたどる恋に、なんともいえない酩酊感すら覚えるのでした。
  作中にとくに記述はないですが、ぼくには作品の季節も藤の花の咲くころのように感じます。藤の花は上品なようでいて、空気全体をセクシャルな雰囲気にしてしまうところがあるように思うのです。そう、だからこの作品も、じつはけっこう色っぽい作品なのかもしれません。

2007年11月18日 (日)

「夜のキリン」(春名トモコ)

  ぼくが一目置く超短編の書き手は何人もいるけれど、そのなかで「この人にはぜったい勝てそうにない」と思うのは春名トモコだけです。実際、500文字の心臓のトーナメントでもたいがいコテンパンな目にあってます。ほかのひと相手だったらたとえ負けてもいつだって“勝って”いるのですが、春名トモコ相手ではそうもいきません。ものがたりの分野で勝つとか負けるとかいうのも変なはなしですが、“負ける”が何を意味するかというと、ようするにぼくが春名トモコ作品を大好きだということです。
  今回は特集が「恋」であるから、春名作品は外せないと思っていました。そこでいくつか春名さんに掲載作の候補をあげていただきました。掲載作のほかにも「シュガー・マジック」「空から降りてくるもの」を紹介していただきましたが、これが困った。「シュガー・マジック」は男にはまず書けない、甘いけどちょっとすっぱいオンナノコの話だし、「空から降りてくるもの」はなんとも透明な「恋」の淡さを感じさせます。
  悩んだのですが、今回は「夜のキリン」を掲載させていただくことにしました。ほかのひとの作品を見渡して、動物的なものがほしいなあと思ったからです。松本楽志作の「煙突」と「キリン」の背高のっぽつながりも相性の面で良いように思えました。マッチ箱は一冊の本なので、全体のバランスも作品選びに影響するのです。
  ともかく、超短編の「方法」を知り尽くした春名トモコの作品はホントにおもしろく、おそろしく、そしてどこかかわいいのです。ああ、また負けた。

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