2020年8月17日 (月)

【発表「珈琲の超短編」大賞作品】『神様』(五十嵐彪太)

    神様   五十嵐彪太
 焙煎する前に準備をしながら「きみたちはイタリアンローストにするよ」と声を掛けてから始める。すると「我々は真っ黒になってしまうのだな」「悪くはないな」「いや、シティーローストがよかった」などと声が聞こえてくる。
 それから、ブラジルだとかコロンビアだとか、故郷の思い出話が始まるのがお決まりだ。
 珈琲が饒舌なのは、「生豆」の段階だ。焙煎が終わる頃にはすっかりおとなしくなる。炒り終えたコーヒー豆が喋っていたら、喫茶店は、五月蠅くて仕方がないだろう。
 だが、かつて一度だけ、いや、一粒だけ、焙煎が終わってもしゃべり続ける豆がいた。「皆、黙ってしまったが、どうしたことか」「焦げたからだろうか」「ここはどこか」
 その一粒は、自宅へ持って帰って瓶に入れて、なんとなく思い立って神棚に置いた。
 朝、出掛けに神棚を拝むと、時々ぼやきが聞こえる。「すっかり焦げてしまった」と。そんな日は、焙煎がうまくいくのだ。

【発表】珈琲の超短編

「珈琲の超短編」受賞作品を発表します(松本楽志賞に関しては後日発表予定)。

 

■■各賞

 

■井上雅彦賞(大賞):

神様』  五十嵐彪太

 

■峯岸可弥賞:

『豆を轢く』 宮田真司

 

■タカスギシンタロ賞:

Hello, world』 立花腑楽

 

■優秀作品賞:

射手辺の遠眼鏡』 アオツリ

 

■■佳作

 

『コウヒ』 春名トモコ

魔法使いの珈琲 』 たなかなつみ

『奇跡』 元木一人

『トカゲ』 末埼鳩

『喫茶リバーサイド』 タキガワ

 

たくさんのご投稿ありがとうごさいました。

※各作者の作品掲載ページにリンクを張らせていただきます。ご希望の方はタカスギまで。



■■選評

 

■井上雅彦

 

 濃厚な四杯の滋味を、堪能させて戴きました。

 冷静なテイスティングというよりも、心を躍らすそれぞれの杯を味わう体験は、個性の際だった花火を飲み干すような興奮に満ちたもので、どうやら今夜は眠れそうもありません。

 たった一杯を選ぶことなどできようはずもない逸品たちからひとつを選ばなければならない場合、私は自分の感性から遠いところにあるものに注視します。私はいつも、これまで味わったことのない魅惑を探していています。しかし、それすら、この四作は、しっかりと持ち合わせています。「豆を轢く」の切実なテーマと端正な技法の切れ味。「射手辺の遠眼鏡」の奇妙なドラマ性と緊張感。「Hello, world」の魔術的なイメージの鮮やかさ。そのなかにおいても、じわじわと異質な薫香を放つ「神様」を、今回、私は選ばせていただきました。

 「神様」はどことなく童話風の(あるいは民話的な)長閑な語り口なのですが、なんともいえない怕さがあるのです。生命を「美味」に変える行為への根源的な原初的な「怕さ」ではないか……などと、考えさせておいて、ぬけぬけとしたラストのこの一行。甘さも苦さも爽やかさもコクもある重奏的な一杯だと思います。

 もっとも……この評価は、私が個人的に珈琲を淹れる際、最も惹きつけられる行程――〈焙煎〉をモチーフにしていることによるものかもしれません。それほど、この四作は比較のしようもない、いずれ劣らぬ強い魅力を持っています。読みかえすたびにそれぞれの後味が、他の作品を際立たせ、思いもかけないブレンドとなって、心の中で響き合う。

 そんなことを感じることができるのも、一篇一篇がデミタスのように濃厚な《超短篇》ならではのことなのだろう、と私は思います。

 

■峯岸可弥

 

峯岸可弥賞:『豆を轢く』 宮田真司                            

 

 珈琲豆が生産され人々に行き渡るまでを「苦さ」という軸で描かれ、世界の理不尽さが浮かび上がる。
 この作品を読んだ方には『おいしいコーヒーの真実』というドキュメント映画を観て貰いたい。

 

■タカスギシンタロ

 

 タカスギシンタロ賞:『Hello, world』 立花腑楽

 

 コーヒーを異世界への入り口として捉えた作品がいくつかありましたが、本作はその中でも世界観の構築がすばらしかった。「天現寺流」「黒豹珈琲」などの固有名詞が、独特の魔術世界を感じさせる小道具として、うまく機能していたと思います。
 ストーリーは狸や黒豹を触媒としたコーヒーの怪しげな世界から「Hello, world」のひとことで一気にデジタル世界へと飛躍。魔法の世界が現代へと接続するそのスピード感も見事です。

2019年4月 9日 (火)

【発表】サウンド超短編

■■「サウンド超短編」結果発表。(たなかなつみとタカスギシンタロの選評が、この記事の最後にあります)

  • 最優秀作品賞 Go to the dogs 五十嵐彪太
  • たなかなつみ賞 コントラプンクト はやみかつとし
  • 松本楽志賞 往生伝 立花腑楽
  • 峯岸可弥賞 Go to the dogs 五十嵐彪太
  • タカスギシンタロ賞 Go to the dogs 五十嵐彪太
  • シライシケン賞(2作品) 往生伝 立花腑楽/Louder Than War 穂坂コウジ

※「Go to the dogs 」と「往生伝 」は同点でしたが、◎が多かった「Go to the dogs 」を最優秀作品としました。


■■選評(◎=最優秀作品・○=優秀作品・△=佳作)

■たなかなつみ評

○往生伝   立花腑楽
>  人いきれと濃密な祈りの気配が混ざり合い、薄暗い堂内は異様に熱っぽい。

課題曲を BGM にして読んだときに、とんでもなく気持ち良い! と感じた作品でした。流れ続けている誦経の金属質な声や泣き声がどんどん高まって加速して、場の空気が熱くなっていく情景が、読めば読むほど、丁寧に課題曲を下敷きにした物語になっていると思えました。読んでいるときの気持ち良さではいちばんでした。熱くなりました。


△明けない夜   空虹桜
>  もちろん比喩。

まず、出だしでやられました。そこから読み進めるのを躊躇して、タイトルとのあいだを何度も往復してしまいました。二段落目は文章が凝っていて面白い。言葉のもつ意味の前提が提示されひっくり返されが繰り返されるのを味わって、それからまた一文目に戻って、うん、と頷いたり。楽しく読みました。三段落目から具体的に「死」が語られていき、流れとしては納得だったのですが、そこまでのトリッキーな表現からはちょっとトーンダウンしてしまった印象はどうしてもありました。最後の「踊る」部分は、課題曲の雰囲気にとても合っていて、なるほど、ここにつながる話なのかと、こういうお題処理の方法も面白いと思いました。結末が先にあったのであれば、どのような流れで冒頭文が生まれたのか、お聞きしてみたいです。


○ ITERATE   佐多椋
>  晴天のなか、雪原を歩いていた。どこに向かっているのか、何のために歩いている

丁寧な描写なのにその情景の印象が課題曲とずれがあるように感じた序盤だったのですが、「ひかり」の描写が始まったときに、音が光の瞬きとして描写されているのに気づき、感嘆しました。光のちかちかと天候の激しい変化とそれにともなう主人公の変化に、読んでいるわたしも惑わされたままエンディングに辿り着きました。楽しそうで怪しげな課題曲の雰囲気が巧く文章に反映した作品だったと思います。


○ 曲解   加楽幽明
> これからお聞きいただくのは、先月、二十八歳の若さで夭逝した作曲家ディモンズ・

音がお題の超短編作品としてのアプローチ方法としては王道のひとつかなと思うのですが、読まされました。その形式に合った雰囲気のある文章も読み進めやすくて良かったです。この作品には、都合上、タイトルがふたつあるのが面白いのではないかと思います。しかも、作品自体のタイトルが「曲解」なので、どうしても単なる曲紹介におさまらない意味を探ろうとしてしまう。読み手を振り回そうという意図がおありだったのであれば、うまくはまっているのではないかと思います。


◎コントラプンクト   はやみかつとし
>  音の個体発生と音の系統発生と音の個体発生と音の系統発生と音の個体発生。音は

どうぞ存分に最優秀賞を攫っていっちゃってください、という気分にさせられた作品でした。まず、この作品自体が意識的な音でできあがっていること、そして、その音が確かに課題曲からイメージさせられるものであること、それから、語られている内容自体が課題曲をイメージさせるものであること、さらに、課題曲が奏でる音が作品の文章から動きのある絵として喚起させられるものであること。あの課題曲からこういう組み上げ方の作品が作れるのかと、目を開かされたように思いました。一段落目なんて繰り返しがあるばかりなのに。タイトルがもうずるいし。「k」音、「k」音、「k」音……で最後盛り上がって、「ko」で締めだし。洗練されすぎていませんか。この作品が朗読されるとどんなふうになるのか、お聞きしてみたいです。


△ 告知   松岡永子
>  今夕。月が昇ったら、この地の新しい主が決まる。

物語としてはとても好きです。息づく自然の絶える様を導入として、それに取って代わった人工物による新しい「自然」の情景を描写して、「止まった」と思われる世界が最後に動的に動いて期待を高まらせて終わる。その構造も、それぞれを描写する文章も、話自体も、とても良いと思いました。ただ、これは完全にわたしの感じ方の問題だと思うので申し訳ないのですが、課題曲からわたしが得たイメージとは開きのある話のように思いました。どうしようかかなり迷ったのですが、優秀作としては推しませんでした。でも、とても面白く読んだことはお伝えしたかったので、佳作に挙げさせてください。


△ 球体   gげんせい
> ぽん!と音が鳴る。空中に現れた小さな球体。ポン!と音が鳴る。柔らかそうな、真

ものすごくストレートに課題曲を文章にする挑戦をされた作品だと思います。音の粒自体がまさに「球体」で「ぽーんポポン」で表現されていると思いますし、曲の持つ怪しげな印象が「ドクロ」というのも、なるほど、と思わされますし、どこかしらコミカルな感じもあちらこちらにちらばめてあって、すごく楽しく読みました。

■タカスギシンタロ評

 「音楽を聴いてイメージした物語を書く」というお題はなかなかむずかしいものだったと思います。しかし読んでみるとどの作品も音と良く合っており、雰囲気をつかんでいてすごいと思いました。音から醸し出される不安感や未来的な雰囲気からか、英語やカタカナのタイトルが多かったことが興味深いです。

△Louder Than War   穂坂コウジ
> 人間の生みだす騒音の中で、およそ戦争ほどうるさいものはない。

 兵器と音楽的事物との対比が続く前半だけなら佳作には選ばなかったと思いますが、ラストに立ち上る煙をマイクロフォンに見立てたことで一気にメッセージ性が立ち上がり、すばらしい作品になりました。

◎Go to the dogs   五十嵐彪太
> 犬は悩んでいる。ありったけの語彙を使い、悩みを説明しているのだが、

 投稿作全体を見渡すと、どれもうまくお題の音の「不安感」や「未知との遭遇感」を処理しているのですが、この作品はそのさらに上を行っています。登場人物(?)を犬にすることで、哲学的な悩みをユーモラスな雰囲気の中で、嫌みなく受け止めることができました。アバンギャルドな絵本を読んでいるかのようなふしぎなテイストの作品です。

○往生伝   立花腑楽
> 人いきれと濃密な祈りの気配が混ざり合い、薄暗い堂内は異様に熱っぽい。

 お題の曲との雰囲気のマッチングは投稿作で一番でした。後半に向けて加速する盛り上がりも音楽的。

○明けない夜   空虹桜
> もちろん比喩。

 絶望や恐怖をあきらめへと昇華させるやりきれない終末感。それでも音楽の力で踊り続けようというメッセージ性がすばらしい。

△ITERATE   佐多椋
> 晴天のなか、雪原を歩いていた。

 日々の営みのくり返しを、音楽における繰り返しのイメージとうまく重ねていると思いました。

○告知   松岡永子
> 今夕。月が昇ったら、この地の新しい主が決まる。

 お題の曲の未来的でありながらどこか退廃的な雰囲気を、プラスチックの廃棄物を題材にすることで見事に表現しています。

△球体   gげんせい
> ぽん!と音が鳴る。空中に現れた小さな球体。

 詩的で音楽的な作品。オノマトペの多用で、お題の曲に合わせて朗読したら間違いなく面白い作品。


以上です。
たくさんのご投稿ありがとうございました。


2019年3月 5日 (火)

超短編20周年記念イベントを開催します。

      ——超短編マッチ箱西荻出張編——

■■超短編20周年記念イベント——広場・心臓・マッチ箱——■■


  超々短編広場がスタートしてから20年が経ちました。超短編の誕生20周年を記念して、当時のことを知るメンバーである峯岸可弥、松本楽志、タカスギシンタロ、たなかなつみ(予定)らが西荻窪につどい、超短編20年のあゆみを語ります。また、イベント後半ではシライシケンさん(Scrum Syrup)のベースをバックに朗読をお楽しみいただきます。事前に募集した超短編の優秀賞発表もあり。

日時 :2019年4月6日(土)15:00〜17:30
会場:銀盛会館(〒167-0053 東京都杉並区西荻南2-18−4)
参加費:1000円
定員:20名

※会場の階段は急なので、足の悪い方はお気をつけください。パイプ椅子が数席分あるほかは座布団席となります。

予約:参加希望者はタカスギシンタロまでメールでお申し込み下さい。氏名・人数をお忘れなく。また、イベント終了後、懇親会を開く予定です。参加希望者はその旨お知らせ下さい。

メール:kotorinokyuden01@mac.com(タカスギシンタロ)

※メールをいただいた方には2、3日以内に返信を差し上げます。返信がない場合はメールが届いていない可能性がありますので、再送するか、twitter(@kotorigun)等でご指摘ください。

■イベント構成

1部:超短編20年のあゆみ

……Asahi netのコンテンツ「超々短編広場」の誕生から、競作サイト500文字の心臓、同人誌「超短編マッチ箱」やフリーペーパー「コトリの宮殿」さらに「俳句と超短編」まで、超短編はどのように書かれ、読まれ、どのように広がっていったのか。

話し手:松本楽志・峯岸可弥・タカスギシンタロ・たなかなつみ※たなかなつみさんは遠方にお住まいのため、当日参加できない場合があります。

2部:超短編はいかにして歌詞になったか

……超短編と同じく20周年を迎えるバンドScrum Syrup。その楽曲のいくつかにはタカスギシンタロの超短編が使われています。その製作秘話をバンドのリーダー、アニキことシライシケンとタカスギシンタロが語ります。ベースをバックに朗読もあり。

3部:超短編優秀作品発表

……イベントにあわせて募集された超短編の優秀作品を発表します。テーマは「サウンド超短編」。最優秀作品はシライシケンさんのベースをバックに朗読されます。

※当日はWebテレビ「BEACON TV」のカメラが入ります。ご了承ください。

2019年2月26日 (火)

【募集】サウンド超短編

 音楽を聴いてイメージした物語をお送りください。詳しい募集要項は下の記事をお読みください。

■■「サウンド超短編」募集要項

■【兼題】
 シライシケン(Scrum Syrup)製作の音源を聴いてイメージした500文字以内の物語をお送りください。タイトル・内容は自由です。音源へのリンクはこの記事の一番下にあります。

■【しめきり】
 2019年3月24日(日)

■【投稿方法】
・kotorinokyuden01@mac.comまでメールでお送りください。
・件名を「サウンド超短編」にしてください。
・メール本文に「ペンネーム」「作品タイトル」「作品本文」をお忘れなく。

■【選者】
 タカスギシンタロ・たなかなつみ・松本楽志ほか

■【発表】
 2019年4月6日(土)開催の超短編イベントにて発表します。その後、当ブログでも発表します。

■【賞】
 各選者賞のほか、最優秀作品はイベント当日にシライシケン演奏のベースに合わせて朗読されます。

■音源のダウンロードはコチラ

2018年9月25日 (火)

【発表】「もうすぐオトナの超短編」山下昇平・選

■■超短編20周年記念企画 「もうすぐオトナの超短編」 山下昇平・選 結果発表

■最優秀作品

待ちびと   末埼鳩

■次点

空く間   松岡永子

■■山下昇平・感想画

↓ 『待ちびと』   末埼鳩 ↓


10_4

↓ 『空く間』   松岡永子 ↓

18_3

※スキャナーで読み込んだら色合いが変わってしまいました。実際はもっと淡い色です。


2018年7月23日 (月)

【発表】「もうすぐオトナの超短編」はやみかつとし選(兼題:日常)

■■■超短編20周年記念企画「もうすぐオトナの超短編」はやみかつとし選結果発表

■■総評

 兼題は「日常」でした。「日常」という言葉には、「ありふれていること」「くり返すこと」といったニュアンスが感じられます。超短篇という、限られた文字数をフルに活用し、書かれたことの外縁や書かれていないことを指し示すことで文字数を超えた表現を目指すジャンルにとって、これは今まで積極的に攻めにくい領域だったかと思っています。一方で、すべての物語は普通の日常をもつすべての人に読まれるべく開かれているわけですから、理屈さえつければすべての超短篇は「日常」と接点をもつ、と言い切ることも可能だったはずです。(募集要項はこれもアリという趣旨でした)
 にもかかわらず、多くの作者の方が敢えて「ありふれていること」「くり返すこと」という側面に正面から向き合い、新しい主題、新しい表現を探ってくださったこと(と、私には思えました)、それはすなわち、超短篇の新しい可能性がここに見られるということにほかなりません。そのことを十分に受け止め、できるだけ真摯な選をさせていただく所存です。


■■選考結果

 選は兼題・自由題あわせて行いました。

■最優秀作品
 「今宵は満月」 松岡永子 (自由題部門)

■優秀作品
 「四階角部屋3LDK」 胡乱舎猫支店 (兼題部門)
 「小さな神様」  春名トモコ (兼題部門)
 「アイ・ノウ」 穂坂コウジ (自由題部門)

■佳作
 「Nowhere Man」 穂坂コウジ (兼題部門)
 「綺麗な考え方を」 空虹桜 (兼題部門)
 「エレベーターの恋」 穂坂コウジ (自由題部門)


■■作品へのコメント

■兼題部門

【佳作】 Nowhere Man   穂坂コウジ
> 「何処へ行っても、此処なんだ」

砂の民の語る日常。その砂の民を迎え送り、思いを馳せるのもまた語り手の日常なのでしょう。タイトルはビートルズの有名な曲から取られているので、その歌詞のフレーズを重ねて読むのも面白いと思います。
なお、60文字前後という長さは超短篇のなかでもとりわけラディカルに短い部類で、そのぶん表現効果への先鋭的な意識が問われます。あえて欲を言えば、「明日」という言葉の繰り返しを削って補助線を増やすことで、イメージをもっと遠くへ投擲できるかもしれません。

FOOL’S GOLD   穂坂コウジ
> 高い高いタワーから、一枚のコインが落ちる。

ゴミ山の物色を生業とするスラムの少女の毎日。そこにあるとき、きらきらと輝くコインが落ちてくるのですが、この何気ない事件を描写する筆致に、少女の日常をどこか遠く離れた場所から眺める、醒めた視線を感じます。タイトルもまた、そのことを強調しているようです(黄鉄鉱に代表される、金のように見える安価な鉱物のことだそうです)。どこに作品の視点を据えるかは微妙な問題ですが、個人的には更に少女の視線の高さまで降りていくことで表現できたものがあるように思いました。おそらく、格差という残酷な現実を、あえて無慈悲なままストレートに描写することを作者が選んだものと理解しましたが、一方そうした社会問題への視点が、作品の読みの可能性を限定してしまうことも往々にしてあります。これは超短篇の表現領域の拡大にまつわる一つの大きなテーマかと思いますが、その難しさに挑んだ意欲的な作品だと受け止めました。

わらしべ長者   といじま
> キーホルダーを拾った。

敏腕芸能マネージャーの半生記。超短篇において、こうした評伝的な語りは尺に収まり切らず中途半端になりがちですが、この作品は余分な修飾を潔く切り捨てたドライでテンポの良い語り口により、珍しく成功していると思います。ただ、タイトルと結びの部分、いかがでしょうか。確かにわらしべ長者のような物語ではあるのですが、そこに集約させることで、逆に物語を小さくしてしまっているように思えます。

引っ越し後の混乱期   海音寺ジョー
> 上北台に先月引越し、やっと部屋が片付いてきた。

上北台や芝中団地といった具体的な地名が登場するのは超短篇としては珍しく、またそれらは近隣の環境や部屋の状況の描写にリアリティを付加する効果を上げているようです。ただ、作品として成立しているかというと難しいところで、身辺雑記、それも自分自身のみに向けたものにとどまっています。それはおそらく、引っ越してきた部屋の現状について、感想を述べていたり、「?」や「!」の使用によって表現に感情を付加しているためだと思われます。不思議に思われるかもしれませんが、むしろ感情を排して徹底的な客観描写に徹したほうが、描写された対象の生の手触りが読者に伝わるようです。これもまた、短い文芸特有の「解釈を読者に思い切って委ねる」という方法論にかかわる一つの側面かもしれません。

【優秀作品】 四階角部屋3LDK   胡乱舎猫支店
> 「代わりに書いてくれない?」

淡々と描かれる鬱屈した日常、と思いきや普通ではないことが起こっている。そしてそれをも淡々と同じ筆致で描き切る。安部公房の短篇を思わせるシュールで不穏な雰囲気に惹かれました。後半の記述から振り返ると、前半で彼の母親に「根を張られてしまっ」たという表現も、もしや比喩ではなく本当に根を生やしていたのではと思わされます。無機質なタイトルも本文によく合っています。

【佳作】 綺麗な考え方を   空虹桜
> わたしはバカなので、誰かの言ったことを理解するのに時間がかかるし、

「わたしはバカなので」のリフレインを息苦しくなるほどたたみかける硬派な作品。しかし繰り返し読むと、語り手自身が自分をほんとうに「バカ」だと思っているわけではないらしいことが伝わってきます。おそらく、周囲の誰か彼かが「わたし」を「バカ」だと言うので、それに合わせてそういう言い方をしている、つまり「わたしは皆のいうバカだろうから」という意味ではないか、と思えてくるのです。そうなると、初読のときからどことなく他人事とは思えない気がしていたこれらの言葉が、読者である私自身のものでもあるという確信が深まってきます。そう、だから「生きなければならない」のです。

さほど冴えない女の子   空虹桜
> 寝顔を盗撮した。軽くよだれ垂れてる寝顔。

寝顔の彼が彼氏なのか、見ず知らずの好みの顔の男の子なのか、どちらにしてもうまく嵌まらない感じなのが残念です。かわいいエピソードだけに、もう少し文字数を使ってふくらませても良かったかもしれません。

希望   空虹桜
> 500文字に10000文字分の感情を。

これを「日常」といっていいのか、いや作品といっていいのかすら、悩ましいところです。あえて「作品らしくない」文体や表現を選んだのだとは思いますが、「500文字に…」のリフレインも、超短篇を書く者としての矜持や悩みも、楽屋ネタ以上のインパクトを持ち得ていないと思います。途中、「〜したい」という言い回しを中心に単語をたたみかける部分のリズムと推進力が素晴らしいだけに、惜しまれます。

【優秀作品】 小さな神様    春名トモコ
> 家に遊びに行くと姉は必ず紅茶を淹れてくれる。

ちょっと不思議な、ほんわかとした、神様のいる日常。超短篇の得意とする方向性ですが、かといって誰にでも書けるといったものではありません。丁寧な筆致と、慎重に選ばれたエピソードが、確かにこんな日常を過ごす部屋がこの世界のどこかにはあるかもしれない、と確信させてくれます。
蛇足的補足ですが、「日常」というのはイコール「リアリズム」ではありません。リアルの中にも「日常」と「非日常」があり、非現実の世界にも同じように「日常」と「非日常」がありえます。幻想や空想と相性のいい超短篇で日常をテーマとするのであれば、この作品こそがまさに王道と言えるかもしれません。

きく、きいて、ききたくない   佐多椋
> 昔からそうだった。

思わせぶりな言葉を過剰に気にしてしまう「ぼく」と、そこから起こるすれ違い。ことの起こりから結末までを丹念に記述しているのですが、そのことで逆に話が観念的なレベルに終始してしまった感があります。むしろ、「彼女」と「ぼく」の会話部分を充実させて具体性をもたせ、地の文の説明は大胆に切り詰めるという方法もありかもしれません。

■自由題部門

【佳作】 エレベーターの恋   穂坂コウジ
> 「バイバイ、またね」そういって、

短く洒脱なお話には惹かれます。この物語は、タイトルが謎解きの答えのような位置にありますが、タイトル抜きにしても不思議な浮遊感のあるお話として完成しています。タイトルと本文の理想的な関係の一例でしょう。

【優秀作品】 アイ・ノウ   穂坂コウジ
> 雨は、だれでも知っている。

では、「アメニアラズ」とは何なのでしょうか。作者は説明しません。ただ、雨という現象と背中合わせのように、必ずそこにひっそりと息づいている何かには違いありません。誰にも気付かれず踊るそれはまるで、遠き日のアステアの幻燈のようでもあります。

あまりリス   海音寺ジョー
> 人類が核で滅び、荒廃した地上に再び生物環が形成された。

そして繁栄したリスの社会の一コマ。人類でもリスでも変わらぬありふれた場面に、リスならではのディテールが差し込まれているのが楽しいです。個人的には、最終段落で描かれる終末後の日没の禍々しい美しさに惹かれたので、バランス的には導入部をもう少し切り詰めて、最終段落をよりずっしり感じたいと思いました。

【最優秀作品】 今宵は満月   松岡永子
> 村ではいつも、月は大きくなる前に狩られた。

そのまま文字どおり受け止めただけでも十分に豊かで魅力的な物語ですが、何度か読み返すうちにこれはミソジニー(女性嫌悪)を逃れて生き延びる一人の女の子の話だと思うようになりました。月(それは一面、女性性の象徴でしょう)が大きくなって手に負えなくなる前に狩る男たち。そのうち何故か痩せ細って減って行く無数の月。そしてわたしと、わたしの月との逃避行。現実のアナロジーを匂わせながら、豊かな表現でむしろ現実そのものよりも身に迫る心情を伝えてきます。先に述べた「社会問題への意識と超短篇」というテーマには、こうした解もあるのだ、と嬉しくまた勇気づけられる作品。謹んで最優秀作品に選ばせていただきました。 

2018年7月 3日 (火)

【発表】「もうすぐオトナの超短編」峯岸可弥選(兼題:暴力)

■■超短編20周年記念企画「もうすぐオトナの超短編」峯岸可弥選結果発表

■兼題部門「暴力」

【優秀賞】
パーマネントのばら 西原理恵子 (投稿作品ではありません)

【佳作】
ホームルーム   胡乱舎猫支店

【次点】
花の檻   穂坂コウジ

【並選】
すてきな二人   氷砂糖
消しゴム   千百十一
クラシフィケーション   たなかなつみ
プラスチック製短下肢装具   海音寺ジョー
公園の墓場   元木一人
骨を埋める   葉原あきよ

■自由題部門

優秀賞該当作品なし


くわしい選者評は以下をご覧ください。

■■選者評

 多少は予想していたのですが、戦争・テロ・虐殺・傷害・破壊・犯罪などといった直截的な暴力が扱われていなかったり、扱われていてもその程度は比較的軽いものが多かったと思います。その代わりに構造的暴力*1や文化的暴力*2に重点が置かれているものが多かった印象を受けました。各々が選者の好みを忖度したか、あるいは他の投稿者の多くがそういう作品を送るだろうという推測からくる戦略か。いずれにせよその点に関しては少しだけ残念でした。投稿してくださった方々が暴力の多様さを求めるあまり、却ってその多様さが損なわれてしまったとしたら皮肉です。
 暴力的な物語の例として個人的には新美南吉『てぶくろを買いに』を挙げることがあり、そのことがタカスギさんから事前にアナウンスされていたのも一因なのかも知れません。この『てぶくろを買いに』の暴力性については、佐多椋くんの『超短編を読む、書く。 -process #2』*3で受けたインタビューに関連する箇所がありますので、興味のある方はこちらも手にとって貰えればと。


*1 通常の暴力(直接的暴力/行為者暴力)とは違い、社会制度や社会構造などに根差しており本来的な加害者(行為主体)が特定され難い種類の暴力。貧困、差別、抑圧、不平等など。

*2 暴力を容認する意識や思想、あるいは暴力に関する無理解や無関心など。直接的暴力や構造的暴力の正当化・合法化の土台となる。

*3 http://p.booklog.jp/book/122249/


■兼題部門優秀賞
□パーマネントのばら 西原理恵子

 投稿作の選考をしている最中たまたま読んだ作品。好みの種類の暴力が色濃く描かれていたので、(もちろん投稿作ではありませんが)これを優秀賞に推したいと思います。


■兼題部門佳作
□ホームルーム   胡乱舎猫支店

 子供の「子供である」という属性そのものが、広義の暴力とが分かちがたく結びついていると思います。社会や大人から保護されなければならない存在であるということは、(保護されることで一部の自由や権利が守られる反面)社会的な規範などによって一部の自由や権利が奪われていることと併発しています。知識や精神や身体が発達していないという自身の能力の低さ、行動範囲や人間関係の狭さ、経済力のなさなど多くの不自由が暴力として立ちはだかっているのです。
 子供の為に必要不可欠な規制(パタナリズム)も、その子供にとっては暴力として機能することもあります。またパタナリズムに見せかけた、単に不合理なだけの暴力も存在しているでしょう。 

 この作品では羽や鰓のある子どもたちに対する教師(?)のやりとりという童話のような語り口で、大人の不合理さやコミュニケーションの断絶などが描かれており、どこか禍々しい。
 夜中に子供たちだけで海や空へ行かねばならない目的は不明ですが、単なる遠足などではなさそうです。子供たちにとって理不尽な目的地が指定され、うっすら不穏な空気が漂っている。文字通り「子供だまし」でもって子供には楽しい遠足だと思わせようとする大人たちの胡散臭さが際立っています。


■兼題部門次点
□花の檻   穂坂コウジ

 警察など、実力行使を伴う公的な権力は「暴力装置」とも呼ばれます。刑務所とは自由刑として犯罪を犯した人間の自由を著しく奪う暴力装置の一つと言えます。
 また内心の自由は民主主義の基本的な条件の一つであり、基本的人権の大きな柱です。日本国憲法においても「思想・良心の自由」として保障されています。思想そのものの弾圧は特に大きな暴力と言えるでしょう。

 作中、直截的な暴力を扱う描写はありません。ただ、色とりどりの花で飾られた綺麗な部屋で歌のレッスンを受けるだけです。異化効果が利いています。
 歌が上達すれば上達するほどにこうした制度に取り込まれ、本質的な意味での「自由」が堅固に縛り上げられてしまってゆくようです。

■兼題部門並選
□すてきな二人   氷砂糖

「水男とアリスはとても仲の良いカップルです」と繰り返されますが、作品全体には共依存によるIPV(ないしDV)が描かれており不穏です。
 一見鷹揚に見える水男とアリスとでは暴力における力関係が歴然として存在し、アリスは何をしても水男に肉体的な被害を与えられない一方で、水男が少しアリスを抱きしめただけでアリスを溺死させてしまうことも出来ます。「仲の良いカップルです」と繰り返されるたびに、関係性の不均衡が際立つ。

 相手に苦痛を与えなければその相手を抱きしめることが出来ないという水男の身体性は、水男自身にとって必ずしも幸せとは言えないかも知れません――彼自身がそれを自覚しているかどうかは別として。


□消しゴム   千百十一

 親が子から受ける「子どもという暴力」が、親が子へ与える「親という暴力」へ再生産される様を描いていると読みました。
 子供が大人による暴力を受けやすいのは勿論ですが親にとっても我が子の存在そのものが広義の暴力として機能されることがあり、そうした暴力は可視化されにくい分だけ問題が根深い。自らの苦しみを訴えたところで周囲からは「単なる甘え」という風に叩かれ、却って自らの人格や親としての資質を貶められるだけだという不安に出口をふさがれてしまえば、本来は最も愛すべき我が子への暴力に逃げ道を求めてしまうことがあるのかも知れません。

 親子に限らず家族という関係は、他より関係が深い分その暴力性もまた濃密になることがあります。
 例えば殺人事件自体の認知件数・発生率は社会が豊かになるにつれ減少していますが、家族間の殺人事件の発生率はほぼ横ばいであり、相対的にはその割合が増大している傾向にあると言えます。家族ことに親子という関係は時代に左右されにくい普遍的な問題を孕んでいるのでしょう。

□クラシフィケーション   たなかなつみ  

「暴力」には「自由を制限されること」が含まれます。ほぼイコールと言って良いかも知れません。
 恋愛や宗教は本来的には人を幸せに導くものですが、人を不幸に突き落す暴力性を孕んでもいます。この作品の語り手のように愛している対象に(半ば自ら)縛られている状態からはなかなか抜け出せないものなのでしょうか。


□プラスチック製短下肢装具   海音寺ジョー

 暴力の概念を最広義に解釈すれば、四肢の障害や「老い」という逃れられない身体的な変化や機能低下もまた暴力の一種として捉えることができるでしょうし、それらに伴う状況や環境の変化などもまた暴力として機能する場合がある。
 ただ作品としては自己の身体性による暴力を描くというより、逆に老いや障害と上手く折り合いをつけることで寧ろそれらが暴力とはならないということが描かれているように読みました。その意味からは、寧ろ今回の募集テーマとは逆行してしまったかと。

 以下、蛇足です。
 刑務所等は「暴力装置」であると書きました。作中では雑居房よりも独居房の方がましという風に書かれており一般にもそう考える向きも多いのですが、実際には独居房の方が雑居房以上に辛い場合があります。一日中他人と接することのない収監方法は「昼夜間独居」あるいは「昼夜単独室処遇」と呼ばれます。この「昼夜間独居」は受刑者の精神的な苦痛が強く、「拘禁反応」(長期間に及ぶ自由を拘束された状態が続くことで起こると精神障害)も出やすい。
 とはいえ刑務官からすると囚人を独居させた方が管理が楽なので(喧嘩などのトラブルが起きる可能性がない)、独居させたがる傾向があると言います。こうした収監方法をはじめ刑務官の囚人に対する振る舞い、代用監獄、入国監理局による収容施設への長期収容、精神障害者の強制的な長期入院などには国連拷問禁止委員会や国連人権理事会などを筆頭に国際的な批判が集まっている現状があります。


□公園の墓場   元木一人

 子供という属性そのものが暴力の被害と分かちがたく結びついていると言いましたが、子供は知識・経験・注意力・想像力の欠如や無邪気さから暴力行為の主体となる場面も少なくありません。その暴力は意識的でも無意識にでもどちらもあり得るでしょう。

 全投稿作の中で最も長かった作品。文字数は500文字以内ではあるのですが、もっと長いサイズで描かれるべきという印象を受けました。
 正直、しっかりと作品内容を読み取れなかったので評をするのが難しい。単なる「思わせぶり」と「外に物語が広がっている」ということの境界が何なのかを説明するのは難しいですが、この作品では若干前者に寄っている気がしました。


□骨を埋める   葉原あきよ  

 自分の出生が父親に望まれていなかったこと(ないし、そう思われてしまうこと)も含めて、特定の家族形態に社会の片親に対する無理解などは確かに暴力の一種と言えますし、またこの母親にとって自らの娘に嘘をつき続けなければならなかった心の有り様にもまた暴力が介在していると見做すことはできる。ですが、この作品もそうした暴力よりも「暴力からの恢復・再生」に重きが置かれていると思います。その点では今回の募集したテーマからすると推しにくい。
 加えて何となく「手癖」のみで書かれている印象もあり、今回もし逆選を付けるのであればこの作品に。

2018年2月19日 (月)

【発表】「もうすぐオトナの超短編」氷砂糖選

■■超短編20周年記念企画「もうすぐオトナの超短編」氷砂糖選結果発表

■兼題部門「お伽話」
【最優秀賞】
青いカナリア     タキガワ

【優秀賞】
かたつむりの唄   穂坂コウジ
御伽噺集   五十嵐彪太
神々のかたり   なな

【佳作】
坊の木枯らし   といじま
イかロ   茶林小一

■自由題部門
【最優秀賞】
歌う鳥   凪野基

【優秀賞】
ちるちるみちる   なな
花はどこへ行ったの   穂坂コウジ

くわしい選者評は以下をご覧ください。

■■選者評

■兼題部門 最優秀賞

□青いカナリア      タキガワ
 寓話としてのお伽話。青という色にマッチした哀しみを湛えた物語で、とても惹かれました。最近知った言葉でいうと「エモい」お話です。すごく好みです。哀しみをイメージさせる青と明るさをイメージさせる黄色を始め、いくつもの対立項が示されていて、短さの中で強固な世界観を構築しています。

■兼題部門 優秀賞

□かたつむりの唄   穂坂コウジ

 童話としてのお伽話。ひらがなとカタカナを多用した演出が、お話の柔らかさを引き立てていて見事です。そしてそこからちょっとギョッとしてしまう、鳥登場の展開へ続くところもギャップが際立っていてよいです。さらにその展開からまた柔らかい雰囲気の結末に結びつくというストーリーの捻り方が超短編的だな、と感じました。

□御伽噺集   五十嵐彪太

 多重に織り込まれた物語の鍵としてのお伽話。好みのお話で、すごく私を狙い撃ちされているような気がします。解読できない文字の本がある体験を通して読めるようになる、というドラマティックなものをこの文字数でやってしまうところに超短編としての面白さを感じます。

□神々のかたり   なな

 昔話としてのお伽話。ひらがなが多用されていて柔らかさの演出が効いています。そして、その柔らかさと会話の殺伐とした内容にギャップがあり、これも超短編的な面白さの一つに思いました。せっかく短くまとめられているのだから、会話のみで成立させていたらまた違った面白さもあったかもしれません。

■兼題部門 佳作

□坊の木枯らし   といじま

子供に伝える物語としてのお伽話。伽の意味に触れているので好ましいです。病気を「木枯らし」と比喩にして物語に登場させているところもよいと思います。ただ、やや言い回しがまどろっこしく感じられます。もっと文章をシェイプさせてもよかったのでは、という気がします。

□イかロ   茶林小一

 夢物語としてのお伽話。最近バズっていたネタも使って社会への問題提起を行う技は見事です。個人的な好みとしては、直接的なものよりも比喩を使ったもののほうが好きです。選択肢が二つなのは、とは一瞬思いましたが、二つでも機会が増えれば行き着く先は多様だろうなと思え、納得させられました。

■兼題部門 そのほかの作品

□私は女神   紙男

 昔話としてのお伽話。「金の斧」のパロディとして説得力のあるものになっています。ただ、パロディであることで終わってしまっているかな、という点で「超短編としての飛躍」みたいなものが弱いかな、と感じました。

□欲望   斜線

 残酷なお話としてのお伽話。ハードボイルド感も漂うお話です。やりたいことの意図はわかるのですが、そのためには没入感が必要になると思われます。となると句読点の打ち方を含め、文体がミスマッチかなあと感じます。最後のカタカナ表記の部分は、カタカナになっていることで軽くなってしまっているような気がします。

□お伽話   松岡永子

 伝承としてのお伽話。短めの文字数の削った描写がいくつもの解釈を許していて超短編的な面白さがあると感じられました。さらっと読むとファンタジーに見えますがSFとも読めます。一切描写されていない語り手についていろいろ考えを巡らせるととても面白いです。

□クニオの冒険   海音寺ジョー

 夜のお話としてのお伽話。介護のリアリティに基づいたお話なのですが、端々に「クニオ」に対する悪意が感じられ、演出だったら見事なのですが、それ必要かなあという情報の仄めかしも含め、わりと悪意そのもので書かれたように思えてしまいます。文章もややぎこちなく感じました。

□お伽の国のあれやこれ   ぽっこり雛豆

 バックグラウンドとしてのお伽話。韻も踏まれていて歌のようです。警句のようにも読めますが、詩ではないような気がします。優しいことが易しく優しい言葉で紡がれていますが、並べて形を整えただけに見え、超短編としての面白さはあまり感じられません。形を整えたという点では気を使っていることは伝わってきます。

□眠れない君のために   空虹桜

 就寝時に伝えるお話としてのお伽話。伽の意味ですね、好ましいです。語り手が物語を書こうとする点は面白いですが、この内容ならもっと文章をシェイプできたように思います。リフレインの多用は、このお話の場合だとしつこさになってしまっています。ストーカー的恐怖を演出しているわけでもないようなのでもっと軽やかだったらなあと思います。

□不眠の国   春名トモコ

 童話としての、また眠りに関するお伽話。伽の意味に真摯で好ましいです。童話の形をとっているのに使われている言葉がわりと軽い(軽やか、ではなく)のでミスマッチに思えます。丁寧に仕上げたら輝くお話だと思えたので、もっと推敲に気を使うと良いのではないでしょうか。

□ワールド・レコード   はやみかつとし

 寓話としてのお伽話。時事風刺的なものが取り上げられていて面白いなとは思うのですが、単語のチョイスが若干古臭いというか、若いフリをしているように読めるというか、そんなことを考えました。枠に納めました感があるので、もう少しストーリーにドライブを効かせてもよかったかもしれません。1段から2段、2段から3段への飛躍は巧みでよいと思いました。あとこれ完全に余談なのですが、3段でSKOOPというアーティストの2ndアルバムを思い出しました。

□つづき   佐多椋

眠りについての童話としてのお伽話。括弧括りの文で最初と最後を括るのは面白いと思いました。ストーリーよりも場面を描きたいのだろうな、と感じられます。瞬間を切り取る超短編的な技に感じました。細かく描写された動きに「お姫さま」という柔らかい主語がブレーキをかけているように読めました。もう少し勢いを大事に単語を選んでもよかったのかもしれません。


■自由題部門 最優秀賞

□歌う鳥   凪野基

 絶望からの反転するストーリー運びとディティールの細かさ、お見事です。その道の専門家(であるべき人たち)からも理解されなかった苦しさが、一つのきっかけによって生きてゆくための手段となるのは、とても希望溢れる物語です。そのきっかけも、ただ偶然出会ったのではなく、主人公の試行錯誤の上で、というのがまた救われます。幸あれ。

■自由題部門 優秀賞

□ちるちるみちる   なな

 場面が丁寧に描写されています。お話としては花びらを拾い上げてまた捨てるだけで、それだけになってしまう可能性がありますが、ひらがなが多用されており、また桜の「花びら」という淡い色を連想させる言葉が繰り返され、見た目に美しい印象となっています。言葉に対して丁寧な印象を受けます。どこか艶っぽさもあり、絵画を鑑賞するときのような静かな力強さを感じました。

□花はどこへ行ったの   穂坂コウジ

 ファンタジックなお話かと思って読み進めていて、おばけの哀しみが描かれていました。「おばけ」というとぼけた字面の主人公、「青い鳥」というどこか寓話的なモチーフ、合せると穏やかな童話になりそうなのに、これは酸いも甘いも知った大人向けのお話ですね。淡々とした文体も、よく調和していると思います。

■自由題部門 そのほかの作品

□たとえばこんな空回り   海音寺ジョー

 前半、細かなディティールがお話に説得力を持たせていてとてもよかったです。つらさも理不尽も、納得というか腑に落ちる感じで地に足がついた文章だと思いました。反面、後半に行くと長い説明の台詞でまとめられていて、強引さを感じました。お話として語られている問題は現実味があるので、後半にも前半と同じくらい気を使うと強い作品になったと思います。

□ひめくり   田中目八

 段の接続での飛躍は超短編的で面白いと感じました。なるほど、ひめくり。擬古文を用いて書かれていることが雰囲気づくりのみにしか作用していないことが気になりました。お話としてはわりとあっさりしたストーリー運びではあるので、装飾したい気持ちもわかりますが。

□胃   田中目八

 擬古文が自然に用いられていて、語り手のひととなりを想像させます。物語に強度を与える効果的な演出だと感じられました。暗喩が込められていることは推測できるのですが、うーん読み切れず。ただ、そういう「わかるようなわからないような」の微妙なラインを攻められることは超短編を読むときの楽しみのひとつだと思っているので、挑戦的で好感を持ちます。

以上。

2018年1月31日 (水)

【発表】「もうすぐオトナの超短編」千百十一選

■■超短編20周年記念企画「もうすぐオトナの超短編」千百十一選結果発表

■兼題部門「年の暮れ」
【最優秀賞】
夜になるとわたしたちは眠る      たなかなつみ

【優秀賞】
晦冥・ゆらぎ   佐多椋
説得    春名トモコ

■自由題部門
【最優秀賞】
運命の恋   春名トモコ

【優秀賞】
水溶性の仕事   たなかなつみ

くわしい選者評は以下をご覧ください。

■■選者評

■兼題部門 最優秀賞

□夜になるとわたしたちは眠る   たなかなつみ 

 機械の心の内側からそっと聞こえる「イエス」「ノー」の声が静謐さを醸し出しています。意味が分からなくても、浮かんできた言葉を書き続けるのは詩人の営みですね。全体にまつわる明るさは、「古いスーツケースに少しの衣類とノートとペン」という夢のような旅支度と、落ち着いた諦念のせいでしょうか。まぶしい斜陽から夜へ向かう時間と生の時間の暮れ、年の暮れ、たいへん美しく響きあっていると思います。

■兼題部門 優秀賞

□晦冥・ゆらぎ   佐多椋

 何の「特別」もないまま世の中から取り残される焦燥感は普遍的なものではないでしょうか。ともすれば愚痴っぽくなりそうな題材を、攻撃的にならずに抑えて扱っていると思います。寒さや苦しさを丁寧に伝えてくる表現をたどりながら、弱くかすかな言葉にしんみりと聞き入りました。最後の一文に罪悪感さえ覚えます。

□説得   春名トモコ

 コミカルな一幕も好きです。短い中でも登場人物のキャラが立っているのは上手いですね。各人(と餅)の声や顔つきが浮かんできますし、「私」もその中にちゃんと参画しているので、登場人物がきちんと使われている印象を受けました。最初のシチュエーションから、お正月らしく楽しく膨らませています。

■兼題部門 そのほかの作品

□出てゆく年、帰ってくる年   葉原あきよ

 奥様が粒あんなら、旦那様は何なのだろう? どうも人間のようですが、旦那さんと奥さんのコミュニケーションの仕方をにおわせるなど、もう一言ないとどうもしっくりと絵が描けなくて。もっとも、そんなことを気にせず、シチュエーションとやりとりを楽しめばいいのでしょう。「そう来ましたか!」という展開はたしかに楽しかったです。

□年の暮れ狂想曲   氷砂糖

 「師走」からの連想ですが、言葉の勢いや表現のバリエーションに凝っているようです。朗読などの題材にしたら工夫のし甲斐があるのではないでしょうか(誰かやってほしい)。鐘が鳴ったところでまだラスト一周とは、なかなかの押し迫り方。最後まで加速して振り切っていますね。

□年の暮れに   海音寺ジョー

 なんか、ざらっとしますね。「知らん」あたりのややぞんざいな言葉や、仔猫について「良質」と値踏みする表現のような端々から、主人公はどうも優しいわけでもなさそうな気がします。自称両親をほのぼの受け入れているわりに幸せな感じがしない……投げやりなのかも。読後にこちらの感情の持っていき場に迷うような、妙な雰囲気の作品でした。

□EVIL   穂坂コウジ

 タイトルに頭をひねった後、念のため辞書で確認しようと打ち込んでたら気が付きました(遅いでしょうか)。前から読むのと後から読むのとで明と暗に意味が裏返るような単語を、うまく見つけられたものだと思います。ただ惜しむらくは、ちょっと前向き過ぎて(時間は後ろ向きなのに!)「EVIL」感が薄い気がします……人生160年とはお疲れ様です。

□この世のどこでもない場所   空虹桜

 だじゃれ自体は場合によっては別にいいのですが、恣意的に設定できる固有名詞を使うのはちょっとずるいと思います。雪国の雰囲気がこれだけリアルに出ているのに、全体がこのだじゃれのためだけになってしまうと勿体ない。雪かきの徒労感、ママさんダンプという雪国出身者しかたぶん知らない小道具などが良かったです。

□もうすぐ   白縫いさや

 除夜の鐘はいいものですね。大人の時間をよそに寝かしつけられる子供というのは、当時は不本意だったかも知れませんが、思い出になると懐かしいものなのでしょう。当時の家族がもういなくなったような歳で、一人で除夜の鐘を聞く主人公を思うと、なんでもない情景がたいへん抒情的に思えてきます。

□優しい脚   といじま

 けっこう時間をかけて読解しようとしたのですが、最後の「炬燵の脚が4本」云々がまだ読み解けていません。その一文がなければまあ、幸せなカップルの情景ですね、ということになってしまうので、とても大事な一文なのではと思うのですが……。「炬燵」の項を見に行って、たしかに4本と書かれていないことは確認しました。

□肉が布団   井口可奈

 あまりといえばあまりのシチュエーションで、どうしたものか何とも困った作品でした。逆選があったら、「この世のどこでもない場所」のだじゃれと競った挙句にこちらを選びそうな気がします。豪勢とはいえ、肉って12月の夜には寒くないですか。その肉は後日食べるんですか。寝間着は? うーん、詳細気になる。


■自由題部門 最優秀賞

□運命の恋   春名トモコ

 ふいに襲ってくる自分でも分からない感情、あるかもしれない。掴みから、正体を明かし、感情を深め、最後をきれいにまとめ、超短編の語り方のお手本のようだと思いました。満員の通勤電車なら、同じ時間に同じ場所に乗っていたら今後もしかして? と少し期待してしまいます。自由題ではありますが、冬の募集ならではの作品でした。

■自由題部門 優秀賞

□水溶性の仕事   たなかなつみ

 個というものがなく、働いて眠るだけの日々。こう書くとつらいのに「水溶性」のおかげで、全てゆるやかに水に流されていくような印象を受けます。個であることに疲れたとき、こうして集合的な意識の中で溶けてまどろむことができたら……まるでこの物語は誘惑するようです。

■自由題部門そのほかの作品

□ボーフラ文庫の打ち明け話  海音寺ジョー

 詩歌関係の名書店「葉ね文庫」をモデルにして、超短編の人たちが東京で行きつけとする食堂「みじんこ洞」の名を借りたような? いずれも有難いお店です。いいお店があると、周りに自然に常連の仲間はできていくものでしょうが、店主さんが「コミュニティとして閉じたくない」という心意気を持っている方が、きっと誰にとっても居心地がいいと思います。


□学名:ヒノデ   穂坂コウジ

 この短さは手練れすぎて、私が賞を出すなどおこがましい! という気持ちで敢えて別格の選外です。新年にふさわしい超短編を、ありがとうございました。「学名」「地球の」ほんの一言で、いっぺんに雰囲気が出るものですね。効果的な取捨選択は本当に難しい。

以上。

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